教育福島0112号(1986年(S61)07月)-024page

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いるのかがわかるようになった。しかし、彼の心の動きを読んで彼の思う通りにすることは、必ずしも彼のためにはならないだろうと思った。何回かかってもいいから彼が心で訴えることを言葉で表現させようと努力した。

私は、彼の心の動きを読みとり、それを言葉にして彼にまねさせようとした。同じことを何回も何回もさせられるので、彼はおこって私にかみつくこともあった。そんな時、私は彼を強くだきしめてやった。すると、彼の心も自然とおちつくのだった。そういう私の動作をみて、他の園児たちは「Y君はいいなあ」と言う。そんな時、私は他の園児たちに心からわびた。

このような生活の中で、Y君と園児たちの心が通じ合うようになった。私がY君も遊びの仲間に入れてくれるように話すと、今度は喜んで受け入れてくれた。こうした園児たちの支えが励ましになり、Y君から言葉らしい発声がでた。私はもちろんのこと他の園児たちの驚きが大きな喜びにかわった。

聞くところによると、Y君が入園する前は、家庭ではおとなしく手のかからない子どもだったという。テレビを見せておくと静かにしていたので、そうした時間が多くなったのだという。現在の社会情勢を考えるとき、Y君のような子どもが増えるのではないかと思うと、改めて幼児教育の大切さを痛感する。

幸いY君は、卒園までには何とかカタコトの言葉をだすことができるようになった。実際、障害をもつ幼児と健常児とが行動を共にすることには、多くの問題点があった。しかし、そうした子ども同志が共に生活する中で、相手を思いやる心や助け合うことの大切さを学んでいけるのだろうと思う。私自身、Y君との出合いを通してそれを強く実感することができた。

今後も一人一人の幼児とのふれあいを大切にして励んでいきたいと思う。

(いわき市立宮幼稚園教諭)

 

夢想天通

佐藤勝夫

 

確定のための分布調査と、その記録保存のための発掘調査を行っています。

 

教育現場より福島県文化センター遺跡調査課に派遣されて、三年目を迎えました。私の所属する課は、派遣教員十九名、プロパー職員十七名、嘱託職員八名など四十四名の大所帯で、調査員の数では東北一の規模となています。主たる仕事は、埋蔵文化財の発掘とその保護業務を行なっています。今年度も県教育委員会の委託を受け、開発に伴い破壊される恐れのある遺跡の範囲確定のための分布調査と、その記録保存のための発掘調査を行っています。

毎年現場での発掘作業が終了し、報告書をまとめる時期になりますと、各地域の遺跡から掘り出された膨大な遺物や遺構などの整理をはじめ、その形状や種類、埋没状況などを読みとりながら、古代の人間活動に関する痕跡を余すところなく、できるだけ正確に、リアルに再現する仕事に忙殺されます。特に、後世に間違った情報を伝えることのないように、細心の神経と注意を払って、収集、整理、復元に努めております。しかし、時間と予算に制約を受けることはいうまでもありませんので、一月以降は毎晩遅くまで整理作業が続き、最後は体力との勝負となります。このように埋蔵文化財保護のために、貴重な記録である報告書を苦労しながら作成している人たちのいることも、知っていただければ幸いと思います。

なお、この機会を通じまして、自分なりに日頃考えている夢や希望についてのべてみたいと思います。

その一つは、「遺跡の里」といいましょうか、宿泊しながら先史時代の生活が再現できる場所で、この中で各時代の生活体験や研修などができるコースがあればよいと思っています。

例えば、この「里」には、旧石器時代や縄文・弥生時代の復元住居群があり、その住居である一定の期間、個人生活や協同生活をしながら、当時の住居や、食事の献立の作り方などを学習したり、石器や土器を作って実際に使ってみたり、また道具を再生して機を織ったり、すきで畑を耕し、当時の作物を栽培するなど、さまざまな体験や学習を通して、先人の苦労や努力を知り、当時の人々の生活習慣や、物の考え方などを研修することができれば、古代の人々の生活のにおいや雰囲気なども味わうことができるのではないでしょうか。

最後になりましたが、将来全国にあるすべての遺跡情報がマイクロフィルムなどに収められ永久に保存されるとともに、全国どこでも家庭に居ながらテレビなどの画面を通して、自分の故郷の先人の生活のようすや、自分の必要とする遺跡情報を取り出してみることができるなら、埋蔵文化財に対する興味や関心も一層高まるとともに、歴史学や歴史教育に対する社会全体の考え方や意識も変わり、日本の歴史的環境も変わってくるような気がします。(福島県文化センター遺跡調査課長補佐)

 

 

 


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