教育福島0113号(1986年(S61)08月)-025page
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環境の複雑さ
佐久間博美
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私たちが目にするホタルには、ヘイケボタルとゲンジボタルの二種類があります。夏の夜、田のあぜなどでポカポカ光って見えるのはヘイケボタルで、私たちにとっては最もなじみ深いホタルです。もう一つのゲンジボタルは、六月下旬から七月上旬の梅雨期に見られ、点滅しない強い光を発します。この二種類のホタルに共通していることは、幼虫の時代を水の中で過ごし、水の中に住む貝類を食べて生育することです。違っている点は、ヘイケボタルが水の流れの少ない田などに住むタニシやモノアラ貝を食べるのに対して、ゲンジボタルはきれいな流れのある所に住むカワニナをえさにすることです。
吾妻中の生徒たちとともに、このゲンジボタルの増殖に取り組んで八年目を迎えました。しかし、ゲンジボタルの発生状況はなかなか思い通りにいっていないのが現状です。原因はゲンジボタルのえさになるカワニナの増殖が思うにまかせないことにあります。カワニナの代わりになるえさはないかどうか調べるためにいろいろな巻き貝を与えてみたのですが、全く食べません。ヘイケボタルは、いろいろな貝を食べます。これがヘイケボタルがけっこう生き残っているのに、ゲンジボタルが減少していく一つの原因と考えられます。
ゲンジボタルの増殖を図るためには今のところ、カワニナの増殖を図るしか方法がありません。学校の敷地内ともう一か所に人工水路を作りました。この水路を自然の状態に近づけるために川の水を直接取り入れて、水路に植物を植えたり、カワニナのえさとなる葉ち葉を入れたりしました。しかし思うようにカワニナは増えてはくれません。
昔は、いっぱいいたカワニナが減少しているということは、自然環境が昔に比べて悪化しているからです。ただばく然と水質の悪化が大きな原因らしいということはわかるのですが、その因果関係はつかめていないのが現状です。
結局、カワニナは、生活環境の変化に対応できないために年々減少しています。
これと同じことは、教育に関しても言えるのではないでしょうか。生徒を取りまく生活環境も複雑さを加え、年々変化してきています。そのバランスがくずれたとき、生徒も不適応行動を起こすものと考えられます。その因果関係を究明することは、その因子となる要素が複雑にからみ合っていて、むずかしい面がありますが、そのままにしておくわけにはいきません。自然を調べるのと同様に、生徒を直視しながら、根気強く複雑な因果関係の糸を解きほぐしていきたいと考えています。そのためにも、日常生活の観察、教育相談などの充実に、今後いっそう力を入れていきたいと思います。
(福島市立吾妻中学校教諭)
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ゲンジボタルの増殖に取りくむ生徒たち
お婆さんのウソ
小山卓
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先日、酒の席に出るため列車で二本松駅に向かうとき南福島駅のプラットフォームの上で突然後から声をかけられました。「その節はお世話になったない、センセ」とていねいに頭を下げて挨拶する老婆を見て、私も反射的に「こちらこそ、お婆さんのおかげです」と言葉を返しました。ほどなく入って来た列車に彼女の背中を促がしながら乗り込み、二本松駅に着くまで孫の様子をつぶさに聞くことができました。
この孫は、今春本校の農業科を卒業した生徒で、担任としての三年間、ずいぶん家庭訪問や電話連絡を余儀なくされたものでした。おかげで私とこのお婆さんは実に「親しい」間柄であったわけです。お婆さんは席にすわるのももどかしそうに新しい旅立ちをした孫の近況を私に告げてくれました。
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