教育福島0114号(1986年(S61)09月)-044page

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図書館コ−ナ−

読書活動

指導者養成講座報告

講演「桃太郎絵本あれこれ」

 

講演「桃太郎絵本あれこれ」

 

昭和六十一年度第一回読書活動指導者養成講座は、七月十七日に福島県立図書館において「桃太郎絵本あれこれ」をテーマに、アン・ヘリング法政大学教授を招いて開催された。その要旨は次のとおりである。

 

私の尊敬する明治期の児童文学者石井研堂先生の故郷、福島で話をする機会を持つことができて、大変うれしく思っています。

石井研堂先生ば、口伝昔話、伝承文学と深く関わっています。じつは、折口信夫先生や柳田国男先生が、民間伝承による昔話の研究を始める前に、日本における伝承文学の研究書の草分けとして、石井先生が大変面白い本を書いているのです。

それは、「日本全国国民童話」という本で、現在入手可能な二つの作品のうちの一つです。明治四十四年、同文館から出版され、昭和四十年に宝文館から再版されています。皆さん、それぞれの図書館、公民館に戻ったら、所蔵しているかどうか確認してください。石井先生の著作として貴重であるだけではなく、伝承による民話の最も古いものとして注目すべき作品です。

ところで、私は、伝承文学としての「桃太郎」を話すことは、まずありません。書誌学、つまり伝承文学と平行線で「桃太郎」がたどり続けた物質文化の中のもう一つの道の道案内をしたいと思います。

さて、「桃太郎」は本当に大昔からあったものなのでしょうか。現在は日本一の「桃太郎」、 日本一の昔話として扱われているのですが、はたして大昔から昔話の横綱だったのでしょうか。

現存する「桃太郎」関係の書籍からは、必ずしもそうではなかったのではないかと思われます。というのは、江戸時代初期から、「かちかち山」、「金太郎」の消息は、探せばたくさん出てきます。「舌切雀」は鎌倉時代まで、「浦島太郎」は、奈良・平安時代までさかのぼることができるのに、「桃太郎」は、元禄時代の前後からしか確認されていないのです。

「桃太郎」は、江戸時代に非常に人気がありました。しかし、「舌切雀」も「猿蟹合戦」も同じくらい人気があったようです。本の数からいえば、「金太郎」のほうが多かったのではないかとさえ思われます。もしかしたら、江戸時代においては、子どものヒーローとして「金太郎」が一番で、「桃太郎」は「舌切雀」、「猿蟹合戦」、「牛若丸」とともに二番目だったのではないかという気がします。

それが確かなことかどうかはわかりません。なにしろ、江戸時代及び明治初期の本格的な子どもの本の研究は、まだまだ、いまひとつというところですから…。これから、いろいろな新発見が出される可能性があります。

もしかしたら、江戸時代初期、或いは桃山時代の「桃太郎」が出てくることがあるかもしれません。しかし、今わかっているところでは、五大昔話、その他の物語の中で、「桃太郎」が、一番出発が遅かったようです。

けれども、いったん書籍の世界に飛びこんでからは、「桃太郎」はいろいろな形で表われるようになりました。享保の頃から現在まで、「桃太郎」関係の書籍が、何らかの形で出版されていない時代は、おそらくなかったのではないでしょうか。

ところで、江戸時代中期から現在までの子どもの本の歴史を一つのテーマを軸にして研究してみれば、大変面白いと思います。

人気度の高い昔話、或いはわらべうたの人物ほど大人の世界にいろいろな形で出てきます。例えば、政治漫画、そして広告から呉服模様に至るまで、昔話の人物やテーマが出てきて後を絶ちません。非常に興味深い現象です。

また、絵本における動物の擬人化は、奈良時代にまでさかのぼりますが、その是非については、一概に断言できません。動物そのものの姿で描くか、擬人化して描くかは、画家の好みではないでしょうか。そして、どちらで描くにしても成功は画家の腕次第というごとです。

絵本では、画風も絵もいろいろあっていいと思います。いろいろあってこそ、自分の好きなものがみつかるのではないでしょうか。容観的にいろいろなものをみつめることが大切だと思います。

 

講演するアン・ヘリング氏

講演するアン・ヘリング氏

 

 

 


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