教育福島0116号(1986年(S61)11月)-025page
笑顔
菊地成子
「菊地さんは、いつも明るくていいない」
「それしか取り柄がありませんから」これは、新採用教員として、野田中学校に赴任し約一か月過ぎたある日に、教頭先生と交わした会話です。
しかし、人間ですから、思い悩み、落ち込むこともあります。学習指導、生徒指導が思うようにいかない時、また最近では、私自身の指導の未熟さにいらだちを覚えることも多くなりました。そのような時に、昨年の教育実習でご指導いただいたI先生が、色紙に書いてくださったことばを思い出すのです。それは、「笑顔」です。うれしい時、楽しい時、おもしろい時に笑みを浮かべていた学生時代の私は、このことばの重要性を知ることができませんでした。人が「笑顔」になる時、それが他人にどれだけ大きな影響を及ぼすかということに気がついたのは、教師になってからです。
一学期のある日のことです。
「今日の調理実習の授業は、全然おもしろくありませんでした」と、二年生の生徒が書いた班ノートを担任の先生から渡されました。この実習は、私が教師になって初めての調理実習で、まだ生徒の実態を把握していなかった私は、(調理実習は楽しい)という浮かれ気分でいる生徒たちが、けがや事故を起こさないようにと絶えずそれだけに気配りをしていました。そのため、自然に私の表情がきつくなっていたのだと思います。私の注意することが、生徒には、いやみにしか受けとれず、お互いにつまらない授業となってしまいました。つまり、反省してみると、この授業には、全く私の笑顔がなかったのです。
このようなことがあって初めて、私は、「笑顔」の重要性を知り、常に、授業の初めは、笑顔で始められるように心がけるようになりました。私の笑顔が、生徒に影響を及ぼしたかどうかはわかりませんが、私が悩んでいる時生徒だちの笑顔に出合うことにより、私自身も笑顔になって、いつの間にか悩みも解消されたことが、今までに何度もありました。
野田中学校には、笑顔がたくさんあります。職員室にも、教室にも。現在このような恵まれた環境の中で、子どもたちとともに学び、ともに成長できる私は、幸せです。私に「笑顔」を与えてくれる、また、私を「笑顔」にしてくれる人たちに、心から感謝いたします。そして、その人たちの笑顔にこたえられるよう努力していきたいと思います。
(福島市立野田中学校教諭)
楽しい家庭科実習
K子のこと
鈴木雅之
夏、真盛り。真夏の太陽が照りつけるプールで、五年生九十六人の水泳特訓中だ。夏休みを利用して、子どもたち全員がそれぞれ自分の目標に向かって努力している。最初は五メートルも泳げなかった子が、二日、三日とがんばっているうちに、
「先生、二十五メートル泳げたよ」と、目を輝かして報告に来る。水泳指導をしていて、一番うれしい時だ。
報告に来た子どもの笑顔を見ていたら、ふと、今年の三月に卒業していったK子の顔が浮んできた。K子は身長の伸びない病気で、五年生になった時でも一メートル十センチ程度で、脚の長さは五十センチもなかった。K子は隣のクラスであったが、水泳は学年全体で指導するようになった。
K子は四年生まで全く泳げず、身体