教育福島0118号(1987年(S62)01月)-027page
んが涙を流しながら朗読した。その声に私たちまで感涙、感動した。基地付近出身のガイドさんが読むゆえに、悲話が、平和への願いとして、まさに生きた教育となっているのだろうと考えた。環境は、教育にとって何よりも大切な要件であることをしみじみと感じさせられた次第である。
今の子どもたちは、物質的には空前の豊かな時代に育ち、そのために、生きることの厳しさ、耐えることへの大切さを体験していない。自立心とともに思いやりの心を持ち、互いに協力し、助け合う人間味あふれる社会を形成していく能力や体力、態度を養うことが、大切であると思う今日このごろである。
(原町市立原町第一小学校長)
ピグマリオン効果
藤田廣彦
その人間にとって重要な意味をもつ他人が、ひそかに抱く期待によって、その人間の能力に変化が生ずる現象をピグマリオン効果といい、それが私どもの教育に大きな示唆を与えるものであることはよく知られている。
これは、女性像に恋をして、現身に変えたいと熱烈に乞い願うことによりその願望を果たしたギリシャ神話のピグマリオン王の故事にたとえて名づけられたという。次のような事例がある、
ある小学校の一年生から六年生に対して、進級前に知能テストを行い、ランダムに選択した児童について、「この子は今後伸びるはず」というコメントを教師に与えた。コメント群と非コメント群に有意な差がみられ、コメント群の方が知能指数が上昇した。
これは、人間の教育において「期待」の果たす役割がいかに大きいかを物語っている。
さて、このことは、児童のみならず教師にもあてはまるものと思われる。
学校経営の目標あるいは方針というものは、「校長の願い」をその根底の一部にして築かれるものであろう。
「この学校は今後きっとよくなるにちがいない」「この教師は、すばらしい教育者になるにちがいない」「この学級は、きっとよくなるはずだ」という熱い期待を、いつどんな方法で伝えるかは、校長にとって重要な課題ではあるまいか。
私は、数多くの良き先輩にめぐまれた。
今から二十六年も前のことになるがある日、校長先生から「若い教師の時代一当時二十六歳一に、日案一今は週案一の反省記録をまとめてみては」という助言をいただいた。さっそくまとめてみたら大学ノート一冊になった。校長、教頭先生の助言も、そのまま写してある。
今、このノートは私の宝物として大切にし、時折読んでいる。教材の見方考え方はたよりなく、背すじから汗が出るような文章であるが、校長、教頭先生の期待と適切な助言にささえられていたことがよくわかる。このように先輩は、若い教師へ熱い期待を持ち、適切な助言を与えていたことを今更のように思うのである。
現在、私は校長として週に一度、先生方の週案に目を通しているが、先輩から学んだ期待を伝えるための機会として、これを大切にしている。
校長の願いが、担任の願いとなり、児童一人一人に実現されたとき、学校の教育目標が達成されたことになると信じながら……。
「はきだめに えんど豆咲き どろ池から はすの花が育つ 人みなに美しき種子あり 明日は何が咲くか」安積得也の詩であるが、この詩からあたたかく人間を見つめ、その人間一人一人へ熱い期待をよせることの大切さを教えられるのは、私ひとりではないであろう。
(矢吹町立中畑小学校長)
〈出版のごあんない〉
福島県の文化財
−県指定文化財要録−
県指定三百四十七件の文化財(昭和六十一年三月三十一日現在)のひとつ一つについて、説明したのが本書です。
概ね一件につき二ぺージを割き、その文化財の学術的価値を解説し、写真ならびに所在地を示す二・五万分の一図を載せております。
すぐれた文化財に接し、新鮮な感動を喚び起す契機として、本書が活用されれば幸いです。
本書は県内の各書店で販売されております。