教育福島0118号(1987年(S62)01月)-034page
特選入賞論文
児童理解に基づく適応指導
塩川町立塩川小学校教諭
芳 賀 忠 夫
本論文は、昭和六十一年度県公立幼稚園・小・中・養護学校教職員研究論文に応募、特選に入賞したものです。
研究主題「生活への意欲を失い非社会的な問題行動をとる児童の立ちなおりを目ざす生徒指導の実践〜児童理解に基づく適応指導を通して〜」とし生徒指導に継続的に取り組んだ成果が見られた論文です。
1) 実践にあたって
一 実践の意図
(一) S子の立ちなおりを目、ざす
S子は、低、中学年時に学業成績が劣っていたが、学校生活の中で特に指導を必要とする間題行動をとるような児童ではなかった。
しかし、高学年になってからは、「私は、なにをやってもだめだ。必ず失敗すると思う。よくなるはずがない」「私がいるとみんなに迷惑がかかるから、いないほうがいい。死にたい」ということを口にしたり、書いたりし、休み時間や放課後、学校を出ていってしまうという言動がみられるようになった。また、家庭でも特に母親に対して口ごたえをするなど、反抗的な態度が多くみられるようになった。
こうした問題行動は、S子の本意ではない。S子にとっては大変な苦しみなのであろう。S子の悩みや苦しみを理解してやり、個に応じた援助・指導によってS子を立ちなおらせ、未来をひらく心豊かなたくましい児童にしていきたい。
(二) S子への指導とともに学級成員の思いやりの心を育てる
S子への援助・指導は、教師からはたらきかけるだけではねらいを達成することができない。教師の援助指導に加えて、所属する集団成員の惜しみない協力とS子を認め受けいれる受容的な態度がなければならないと考える。
この実践では、所属する集団の成員に互いの人格を尊重し、共に助け合いより望ましい生活をしょうとする態度を育てることができると考えた。
(三) 今までの指導の問題点を明確にし
今後の生徒指導に生かす
いじめ、登校拒否、校内暴力等の問題行動に対して積極的な試みや援助・指導がおこなわれているが、問題行動が発生してからの治療的対策が多いものである。S子への援助・指導も事が起こってからの指導である。
多くの問題行動がそうであるように、S子の場合も問題行動が顕著になる以前に、S子の言動に問題行動の前兆となるようなものがあったにちがいない。それを教師が的確に把握し、適切な援助・指導をしていれば、問題行動の発生を防止できたのではないかと考える、
この実践では、こうした教師の指導の問題点を明確にし、今後の生徒指導に生かせるものが見い出せると考える。
二、実践にあたっての基本的な考え方
問題行動をとる児童への援助・指導にあたっては、問題行動をとる児童をどう受けとめるか、指導者の児童観が基本となる。
問題行動をとる児童を目の前にした時、我々は、時として、問題行動をとる児童のことを"集団生活の規律を乱し指導の手を煩わせる悪い子である"と受けとめることがある。そして、実際の指導にあたっては、問題行動を頭ごなしに叱責したり、罰を与えることによって問題の発生を防止しようとすることが多い。
このような児童観とそれに基づく指導では、問題発生を一時的におさえることはできても問題の根本的な解決にはっながらないと考える。
私は、問題行動をとる児童を、基本的な生活習慣や学業にかかわる基本的な能力が十分そなわっていなかったり、性格的な面で弱さがあったり、環境面で恵まれないことがあったりするため、問題行動をとるという方法でしか自分自身を表現することができないのだと考える。問題行動をとる児童であっても、その切なる願いは、"一人の人間としてかぎりなく伸びていきたい。自分自身を十分発揮したい"という人間性の高まりを望む心であると考える。
したがって、援助・指導にあたっては、児童を一人の人間としてその人間性を尊重し、適切な援助・指導をすれば、現在どのような問題行動をとろうとも、必ず望ましく変容していくのだという児童観をもつことが大切である。「児童を一人の人間としてその児童のもつ望ましい変容への可能性を信ずる」
これは、当然のことであるが、実践