教育福島0124号(1987年(S62)09月)-044page
教育センターから
自己教育力の育成について
一、はじめに
「自己教育力の育成」については昭和五十八年十一月、中央教育審議会教育内容等小委員会において初めて提案され、さらに昭和六十一年四月、臨教審第二次答申の第二部「教育の活性化」の中でも提唱され、以後全国的な実践研究として取り上げられるようになりました。
今日、自己教育力の必要性が叫ばれるようになった背景には、近年における学校での問題行動多発の現状や、目まぐるしく複雑に変化する社会への対応の必要性をあげることができますが、本来自己教育力の育成は、子どもの成長段階に応じて学校や家庭及び社会が、「望ましい人間形成」の視点からそれぞれ当然担うべきことであって、教育本来の根本原理であるともいえます。・
二、自己教育力育成の概要
自己教育力が提唱されて以来、現在まで多くの論文が出され、多くの提言がされています。この主なものをあげれば、1)自己教育力を育てるには、基礎、基本の徹底、個性と創造性の伸長、文化と伝統の尊重に視点をおき、主体的な学習意欲・意志の形成、学習の仕方の能力及び激しい社会の変動の中での望ましい生き方を養うことにあるとすること。2)教育の究極のねらいは、「人間として自立すること」であるとし、自律性、洞察力、判断力、決断力が養われることで成り立つとすること。3)自己教育力とは「他人から何も言われなくとも自己の能力を伸ばそうとする潜在力」であり、このためには内発的動機づけを強めて自己啓発力を高めることであるとすること。4)学力は、「学んだ力」「学ぶ力」「学ぼうとする力」の三要素によって成立するとし、学習到達度としての学力より学習可能性としての学力観に指導の力点をおくとすること、等が報告されています。
三、十二の達成目標と評定尺度の設定
当センターとしては「自己教育力を育成するための学校教育の改善に関する実践的研究」のテーマを掲げ、前述の1)〜4)を研究の基本方向としてとらえ、研究の最終到達目標を「主体的に変化に対応できる個性的な人間の育成」におきました。さらにその下位目標として「自ら学ぶ意志・態度・能力の形成」とし、これを支える要素として、「学習意志の形成」「学習の仕方の習得」「生き方の探究」の三つをあげ、それぞれの要素を成立させる十二の達成目標を設定しました。
十二の達成目標とは、子どもたちに「自己教育力」が育った姿とはどういうことか、子どもがどのような状況に変容すれば「自己教育力」が育ったといえるか、そのためには情意面、行動面から見た状況をどうとらえれば適切なのか等の検討の中から、「自己教育力が育った望ましい状態像」として設定したものです。(表1参照)
この状態像をもとに、子どもを観察し評価するものさし、即ち教師が子どもの学校生活における姿としてとらえる尺度として、五段階に分けて設定したのが評定尺度1)(資料略)です。例えば、到達目標A「問題意識をもっても
表1 自己教育力が育成された状態像
A.問題意識をもってものごとを見ようとしているか。 B.問題解決に向けて積極的に取り組もうとしているか。
C.困難に立ち向かい解決するまて努力し続ける強い意志をいたいているか。
D.学習することに喜びと満足感をいだいているか。
E.主体的に目標を設定しているか。
F.問題解決へのすじ道や方法などを見通して取り組んでいるか。
G.問題を解決するにあたって、自ら工夫し的確に行動しているか。
H.学習した結果を次の学習に生かしているか。
I.自分の姿を客観的に見つめ行動しているか。
J.責任をもって誠実に物事を遂行しているか。
K.集団生活の中で他と共に自分を向上させているか。
L.生きることに喜びを感じ、充実した生活を送っているか。