教育福島0131号(1988年(S63)06月)-007page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

東大法学部を卒業したO君は、学生時代下宿で二部屋を借りていた。一部屋は書庫だったのだ。法律の勉強は最低限しかしなかった。シナリオライター志望の彼は、多くの本を乱読する傍ら、映画を年に数百本見たという。クラブ活動にも専念した。しかし、アルバイトは時間が惜しいので一切しなかった。

高校を卒業してNHKに入ったN君には両親はいない。父親とは小さいときに離別し、母親は高校卒業直前に過労が原因の結核で亡くなった。母親を助けるために、N君は小学校二年生のときに新聞配達のアルバイトをしたという。足がやっと届く大人用の自転車に新聞を積んだ。雨の日などは、坂道を自転車を押して登るのが辛かったという。その辛さに耐えて、がんばり抜いたのは、小さいとき、最愛の母から「大きくなったらお母さんを幸せにしてね。」と言われたからだという。

その母親も十七歳のとき、「○○ちゃんは、もう大丈夫ね。」と病床の苦しい息の下で言って、目を閉じた。傍らには妹と弟がいた。

N君はNHKに入って働きながら夜間の大学を卒業した。先年、妹を結婚させた。弟を扶養している彼は炊事担当の妹が家を出た機会に、飛び切り美人の彼女を見つけて自分も結婚した。仕事は誰にも負けないガッツの青年である。

O君、N君に共通して言えるのは人生に正対していることである。人生に正対するとは「現在の時間」を大切にしていることである。

「いま」を大切に生きるためには、人生観の教育が必要である。私は新人たちに次のように教えて来た。「人生は誰のものか。人生は自分のものであるが、現在の自分のものではない。将来の自分のものである。だから、将来の自分が現在の自分の時間の過ごし方を感謝するだろうかをときには思うことが大切だ。自分を大切にするとは、現在の時間を大切に過ごすことである。」「一寸の光陰ファミコン遊び易し」人生の時間が安易に流れやすいことを自戒したい。

 

子どもたちに「いま」を大切に生きる教育を

子どもたちに「いま」を大切に生きる教育を

 

提言

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。