教育福島0159号(1991年(H03)11月)-024page
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そのクリストが今回発表した作品は十九kmにわたって続く国道沿いの町々に一,三四〇本に及ぶ八角形の傘を立て並べたものであった。直径八mのブルーの傘は、農家の庭から田んぼや川の中に至るまで次ぎ次ぎと広がり、静かなはずの風景があっという間に傘の世界になっていた。
とにかく前衛芸術は難しいものと思われがちだが、彼の作品は理屈ぬきに美しさを感じさせてくれる。自然に調和する色彩や配置もみごとで、みる人達を感動させてくれる。
しかし、彼の作品の魅力はそれだけではないようだ。クリストの作品を実現させるためには、実に多くの人々の協力が必要である。計画が大きくなればそれだけ必要になる。彼はその協力を得るために自分自身で一人一人接触し自分の考えを話し、助けを得てゆく。土地の所有者から傘を開いてくれる町の人々、そして町の子供達に丁寧に自分の考えを話してゆく。今回もその協力を得るためにかなり苦労したようだ。こうして一人づつ協力者を増やしながら、やがて、作品が発表される。ついに一人一人の協力と参加によって作品が生まれるのだ。今回、傘が開いた瞬間何人の人がつくる感動を味わえたのだろう。作品が生まれた時、参加者全員が作者となる。クリストの作品は個人だけでなく、人々全員のものなのだ。すばらしいことだと思う。今回訪れた町の人々も皆どこか得意顔でうれしそうであった気がする。
青い傘の下で、学校や社会もこのようになればすばらしいんじゃないかと思う。一人一人の協力と参加によって大きな傘を広げたいものだ。
今、自分が学校という場の中で、何ができるのか?考えてしまう…
学校のクリストになってみようかとよふと思う。
(県立新地高等学校教諭)
あるプロ野球選手の話から
久保直紀
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プロ野球の大洋に白幡隆宗という選手がいる。彼は、今年の一月、巨人から突然「契約解除通告」を受けた。いわゆる「くび」の宣告を受けたのである。まだ余力がある。野球がしたい。そんな時、声をかけてくれたのが、現在大洋の監督で、もと巨人の二軍監督であった須藤豊氏である。
その白幡選手が、今年大洋の選手として大活躍した。彼は、もともと非凡な才能の持ち主だったに違いない。ただ、旧チームでは、何かの原因で、本当の実力が発揮できなかった。それが、須藤監督率いる大洋に入団してから、本人もさらに気を入れ替えて練習に励んだために、よい結果となって現れたのかもしれない。
だが、彼の場合はそればかりとはいえない。ある新聞記者のインタビューに「監督が毎日使ってくれるんで自信になりますよ。」と答えている。巨人を契約解除になった自分を救ってくれた須藤監督に、いくらかでも応えようとする意欲がよい結果につながったともいえる。
そうした「やる気」を起こさせたのは、自分を遇しなかったものへの反発というよりは、逆に認めてくれたものに対する「人生意気に感ず」の心かも知れない。いたずらに精神力第一主義を説くつもりはないが、同じ選手が、ただチームが変わっただけで、別人のように活躍している姿を見ると、やはり、精神面が及ぼす力の大きさを感じる。
優れた指導技術を持った指導者と才能を持った選手。その両者間に成立する関係なくして良い結果は生まれない。
教師としての以前の自分は、授業において、ある目標を達成するための様々な指導方法や技術について思い悩む時間が大部分を占めていた。そして、それらの方法や技術の善し悪しで、子どもや自分や同僚を評価してきたように思える。しかし、年数を経るごとに、子どもと教師とのつながりをより大事にしようという考えが、自分の中で大きく占めるようになってきた。そのような関係の上にこそ私たちが理想とする教育が展開されるであろうし、子どもたちの持っている力を十分に引き出すことができるのであろうと考えるようになってきたのである。
「恩返しは済みましたか。」の記者の質問に「いや、まだまだです。」と答えている白幡選手。一人の男の人生に大きな転機をもたらしたこの出来事が、いまだに私の心に強く残っている。
(玉川村立玉川第一小学校教諭)
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