教育福島0203号(1997年(H09)06月)-025page
旅をして
薄葉惠美子
私は旅が好きである。透き通るような新緑のころや青い空が広がり草いきれが匂うようなころになると、なんとなく心が浮き立つ。でも、ここ何年かは、家に生き物がいることや体調が不安なこともあり、旅から遠ざかっていたのだが、かねてから行きたいと思っていたカナダを旅することができた。
しかし、出かける間際に食中毒になってしまった。果たしていけるのだろうかと不安であったが、行きたい一心で医者に通い、ひどい頭痛と戦いながら、最小限の荷物をやっとトランクに詰め込んだ。出発の日、前日までの具合の悪さは、うそのように消えていたため、病気に意地が勝ったと自分勝手な解釈をして、喜々として出かけた。
カナダは、自然の生きている国であった。雄大さと清々しさを見せる山々。氷河湖特有の青さを秘めた湖。絵ハガキをみているような公園や街並み。人の手が加えられている美しさなのであるが、ごみはほとんど見当たらなかった。熊やリスなどの動物になんの気構えもなしに会え、この国では当たり前であることに、感嘆の声をあげてしまった。出発前の体調の悪さも忘れるほどであった。しかし、やはり治りきっていなかったのと、旅の興奮から眠れなかった日が続いたのとで、とうとう一日ダウンしてしまった。半分みんなのお荷物になってしまった私に、ツアーの人たちは、バスの席を譲ってくれたり、薬を分けてくれたりと、一様に親切であった。自由行動が制限されるツアーは好きでなかったが、こういう旅もいいものだなと感じられた人たちとの出会いの旅でもあった。
ほとんどの人が、現あるいは元教員で、中高年という構成であったが、カナダの発見とともに、生き方の発見でもある旅であった。愛知の神主でもある愉快なOさん、デザートよりもお酒好きな愛媛のEさん、旅のこつを熟知していたおしゃれなSさん、なんでも見てやろうという行動派のKさんなど、皆、旅の達人に見えた。旅するということは、気力と体力がいるものである。肉もケーキもなんでも大きくて大ざっぱな料理(体調の悪かった私にはこたえたが)も、しっかりと食べ、雄大な自然にも負けないくらい精力的に見聞していた人たち。年齢には関係ないとつくづく思ったのである。好奇心と感動する心にあふれた人たちとの出会いは得難いものであった。
生活がしんどくなると、ツアーの人たちを思い浮かべて「力を抜いて自然に」「楽しく前向きに」と、自分の心に言い聞かせている。
(いわき市立大野第一小学校教諭)
一通の手紙から
菅野浩智
この三月、私の手元に一通の手紙が届いた。高校を卒業した教え子からのものであった。中学卒業以来、音信不通であった教え子からの手紙に一種の驚きと喜びを感じた。というのは、この生徒は中学時代、どちらかというと私の話を素直に聴き入れてくれないと困っていたからであった。
手紙には、中学時代は自分の気持ちを素直に表現できなくて、自分も辛かったが周りの人に大変迷惑をかけていたことや、高校卒業後は親元を離れ東京で就職することなどが書かれていた。最後には、「今の自分があるのは先生のおかげです」とも書いてあった。
そういえば、彼が中学時代友達と喧嘩し辛い思いをした時期に仲直りさせるために相手に働きかけるとともに、毎日一所懸命声をかけ、慰めたり励ましたりしたことを思い出した。
手紙を読み終えた後、私の頭の中を「教師は生徒の最大の環境である」という言葉がよぎった。これは私が教育実習期間中、指導に当たってくださった先生が言っておられた言葉である。それ以来、この言葉が私の耳から離れない。
確かに、私たち教師が生徒に与える影響は、善かれ悪しかれ大きいものである。何気ない言動が生徒の心を引き付けたり遠ざけたりしたこと