教育年報1956年(S31)-057/73page
依然として幾多のあい路があるので、今
後の大きな努力と研究に待つところが甚
だ多いのであるが、昭和三十年度以降必
要な予算の裏付けを望めない現状では、
可能な予算のもとに後出の如き努力目標
を掲げて、県立図書館の性格と使命に微
力をいたしてきた次第である。
次に新しい図書館の在り方を規定した
「図書館法」第三条「図書館奉仕」の
条文を掲げる。
(図書館法抜萃)
(図書館奉仕)
第三条 図書館は、図書館奉仕のため、
土地の事情及び一般公衆の希望にそ
い、さらに学校教育を援助し得るよう
に留意し、おおむね左の各号に掲げる
事項の実施に努めなければならない。
一、郷土資料、地方行政資料、美術品
レコード、フィルムの収集にも十分
留意して、図書、記録、視覚聴覚教
育の資料その他必要な資料(以下
「図書館資料」という。)を収集
し、一般公衆の利用に供すること。
二、図書館資料の分類排列を適切に
し、及びその目録を整備すること。
三、図書館の職員が図書館資料につい
て十分な知識を持ち、その利用のた
めの相談に応ずるようにすること。
四、他の図書館、国立国会図書館、地
方公共団体の議会に付属する図書館
叉は図書室と緊密に連絡し、協力
し、図書館資料の相互貸借を行うこ
と。
五 分館、閲覧所、配本所等を設置
し、及び自動車文庫、貸出文庫の巡
回を行うこと。
六、読書会、研究会、鑑賞会、映写会
資料展示会等を主催し、及びその奨
励を行うこと。
七、時事に関する情報及び参考資料を
紹介し、及び提供すること。
八、学校、博物館、公民館、研究所等
と緊密に連絡し、協力すること。
一、努力目標
1 県立図書館庁舎の建築
福島県立図書館は明治四十二年の木造
建築にかかわる元物産陳列館を転用した
もので、もともと図書館建築としては、
極めて不向きな建物であったばかりでな
く、近来は何れにも増して老朽の度が急
進し、人命にも危険を感ずるようになっ
たので、昭和二十九年秋県庁舎の改築が
完成し、県議会議事堂もこの中に吸収さ
れたので、その跡へ同年十二月図書館を
移転させ、新館舎完成までこの旧議事堂
庁舎を図書館の仮館舎と定めた。
しかし、この木造の建物も明治中期に
建設されたものなので、その老朽度にい
たってはむしろ前者以上であり、その上
この旧議事堂内には、図書館のほかに県
立病院の病室も雑居しており、ために仮
館舎とはいえ、図書館事業の運営上、管
理上遺憾の点が甚だ多い。特にこれら密
接区域より不測の火災でも起きた場合に
は、図書館のすべてが一瞬にして類焼の
厄に遇うことは必定である。即ち一日も
早く新館舎を建設して、図書館法第三条
に示すような図書館奉仕を行い、広く社
会文化の向上に貢献せねばならない。
2 県立図書館としての使命の適正化
県立図書館の一つの大きな使命は、単
なる公共的通俗図書館であるばかりでな
く、県内唯一の公共的参考図書館として
広く深く図書館資料の積極的収集保存を
図らねばならない。換言すれば県営の所
謂文化財の総合的牧集保存センターでな
ければならない。
5 県内全地域に対する図書館奉仕
県立図書館が県費運営の公共図書館で
ある限り、県内全域に図書館サービスを
及ぼすべきは当然であるので
(1) 分館及び貸出文庫の充実
(2) 自動車文庫の充実を図る
自動車による移動図書館の性格と
使命
本が読みたくとも、時間がなくて読む
ことのできない人がある。また書物がみ
たいのだけれども購入することはでき
ず、近くに図書館がなくてみることがで
きない人もある。
さらにまた、読もうと思えば時間もあ
り購読することもできるのだが、読もう
とする意欲をもたず、読書をある特殊な
階層の人々のすることと考えている人も
ある。学校にいる間は本を読んだけれど
も、卒業とともに書物から離れてしまっ
て、それからはどうも読書に抵抗を感ず
るという人もいる。これらの本を読まな
い人々を図書館では不読書大衆と呼んで
いるのである。
図書館が資料を保管して、一部の利用
したいものにだけそれを提供する旧い保
存を中心とした図書館であれば、これら
の不読書大衆は、図書館とは無縁の大衆
として問題とはされなかったのであるけ
れども、新しい近代的図書館では保存よ
りも利用が中心となり、資料は一般大衆
に利用されなければならない。公共図書
館が図書館法により入館無料とされてお
ることも、それぞれの図書舘が極めて開
放的な計画のもとに入り易く利用し易く
運営されているのも、このような新しい
図書館理念のあらわれである。
しかし、いかに図書館が便利に利用す
ることができるように計画されており、
いかに図書資料が利用し易いように整
理保存せられていても、距離的にどうし
ても本館へ来てこれを利用することので
きない人々が沢山ある。不読書大衆の中
には、この距離をなくしたり、書物が手
に入りさえすれば読者になる人々が潜在
する。これらの潜在する読者に、読書の
便宜と機会を提供し、さらに不読書大衆
を開拓するために、県立図書館は県費運
営の図書館であるので、県民の方々にサ
ービスを行うために自動車による移動図
書館が活動しているのである。