高等学校における生徒の能力・適正,進路志望等に対応した教育内容,指導方法等の研究開発について-010/82page
青年が学習する教育機関であり,小学校,中学校,高等学校を通して,「普通」教育をほどこすことに力点がおかれるべきであって,初等か,中等か高等かについては,生徒の能力・適性に応じて考慮されるべきであろう。
いわゆる国民教育の立場から,普通教育を考えるとき,高等学校においては,生徒の年令に応じた個性の発達,すでに履修した小学校,中学校の教育内容修得の程度,さらに,卒業後の進路の多様性からみて,画一的な,固定した教育課程を設定するのは,効果的でないし,また,不合理であろう。
小学校及び中学校を卒業した後に展開される高等学校教育にとって重要なことは,高等学校で学習する生徒の能力・適性が,小学校及び中学校における9年間の教育によってきわめて多様に開発されていることと,卒業後の進路の複雑さである。大学に進学するもの,各種学校で技能を身につけるもの,就職するもの,家事に従事するものなど,いずれにしても,まもなく成人に達しようとしているさまざまな能力・適性をもった青年たちを,国家社会の有為な形成者に育てあげるのが高等学校教育である。
高等学校教育は,生きがい教育の観点からみれば,人間教育の基礎づくりの一応のまとまりを示すものであって,学校教育終了後における学習の継続を可能にする基礎学力を養成するとともに,正しい職業観,勤労観にささえられた学習意欲を育成しなけれはならない。
高等学校で学校教育をおえるものも,学習を継続する意欲や態度が,高校卒業と同時に消滅するようであってはならない。また,大学進学希望者が,高校生活3年間を受験準備に終始することも望ましいことではない。
社会人として,この複雑な機構の中で生きていく道を模索させ,その過程において,教師は生徒の能力・適性を十分に観察し,適切な助言を与えることができる,いわゆる観察期間として,高等学校が機能するならば,後期中等教育は充実したものになるであろう。
以上の観点から,高等学校教育は,普通教育に重点をおき,成人として歩む進路を決定するための2〜4年の準備期間とし,専門教育は,この普通教育をおえた生徒が進む,職業教育を主とする高校(2〜3年の専門学校)においてほどこすのが妥当と考えられる。
2) 各教科・科目の構成
普通教育の充実は,基礎学力の整理,定着を図ることに最大の重点をおくべきであり,高等学校教育ば普通教育の一応のまとめという意味で,生徒たちが,小・中学校で学習した内容を整理し,基礎学力として定着することを第一とし,そのうえにさらに進んだ内容を累積することのできる場として,高等学校を位置づけることができる。
高校生のうち,現在の指導内容を理解し,授業についてゆける生徒は30%にすぎないという報告は,残りの70%の生徒には,小学校・中学校における学習内容が定着していないことを示している。
これらの70%の生徒に焦点をあてることが,現在の高等学校の教育活動を改善充実して,効果をあげる方策の基本である。しかし,これらの70%の生徒のために,他の30%の生徒が犠牲になるのは,国家的損失だという意見があり,70%の生徒を大切にしながら,一方において,すぐれた能力をもった生徒たちを伸ばしていく方法の研究を忘れてはならない。
高等学校教育における基礎学力の水準は,小学校,中学校の教育内容のうえに,現在の高等学校第1学年程度の内容を加えたものにすることが,現実的と思われる。したがって,卒業に必要な履修教科・科目及び修得単位数もこの水準から定められることになる。