研究資料分類基準G2-04高等学校社会科「現代社会」の研究-096/170page

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資料1) 人格権、環境権(新幹線公害訴訟 1980年9月11日名古屋高裁判決)

  被害 公共性 差し止め 慰謝料
原告 早朝から深夜まで,4,5分間隔の激しい騒音,振動は住民の生活環境を破壊。生活妨害や精神的被害のほか自律神経失調など身体的被害も出ている。 新幹線の需要は,国鉄の営業政策で作られたもの。半数は観光目的で,被害を無視してまで二百キロの速度は不要。公共事業として公害防止責任を果たすのが先決だ。 平穏で健康的な生活は国民すべてに与えられている憲法で保障された基本的価値。人格権,環境権とされる絶対的なもの。健康侵害が続く以上は差し止めが不可決。 高速性や経済性を重視,路線選定を誤り,軌道構造も弱いなど公害防止対策を怠った。設置,運営の暇疵(かし)があり,国家賠償法二条などによる賠償責任がある。
被告 診断書や鑑定書もなく,主観的なもの。単なるストレスともいえ車など他の騒音の影響もあり得る。新幹線騒音の継続時間も短く,疾病はない。因果関係も不明。 年間一億人の利用があり,国民の足として定着。時間短縮効果などを経済的にみれば,ばく大な価値。福祉にも寄与,経済の根幹となる交通網の中心となっている。 人格権などを絶対的権利と主張するが,共同社会においては他の権利,利益との比較が不可決で,他の権利を絶対的に排除する権利とは認められない。 開業前の騒音試験では在来線並みと予測され,高速走行の安全性も兼ね,当時で考えられる公害防止対策を行った。その後も研究を重ね実施しており,過失はない。
判決 うるささ,不快感を基調とした心理的精神的被害,生活防衛を中心とし,被害内容およぴ程度に相当の広さがあり.高レベルの原告の被害はより増幅される。しかし,低レベルの原告らにも被害は存するのであり,かつ,低レペルの場合は,被害の程度は必ずしも暴露値(騒音,振動の数値)と相関しない。 被告は高度の公共性を有する公法人であり本件7キロ区間における減速の容易さ,右減速が運行全般に与える影響の少なさという視点に局限して事を論ず全線の問題としてその是非を決すべき問題である。一地域で減速すれば他地域における減速につながろことが予想される。 人格権に基づく請求は適法だが,被告が現在までに到達した平均80ホンのレベルは一つの限界値であり,環境基準の最終的指針値以下に低減させるのは不可能に近い。移転対策防音工事助成対策は,難点がないわけではないが,一応高く評価すべきであり,減速という差し止め方法を認めることは相当でない。 国賠法2条1項の暇疵(かし)の有無は受忍限度との関連において判断すべきだが,原告らの被害は受忍限度を超えるものと認められ,新幹線の設置,管理に暇疵があったものというべく,被告は損害賠償の義務がある。将来の慰謝料請求は,あらかじめ請求する必要がないので却下する。

(読売新聞 1980年9月12日)


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