研究資料分類基準G2-04高等学校社会科「現代社会」の研究-128/170page
はじめて達成される。ここに,家庭,社会,国家の意義もある。家庭,社会,国家は,経済的その他の意味をもつことはもとよりであるが,人間性の開発という点からみても基本的な意味をもち,それらを通じて人間の諸徳性は育成されてゆくのである。
人間は以上のような意味において人格をもち個性をもつが,それは育成されることによってはじめて達成されるのである。3 自己をたいせつにすること
人間には本能的に自己を愛する心がある。われわれはそれを尊重しなければならない。しかし重要なことは,真に自己をたいせつにすることである。
真に自己をたいせつにするとは,自己の才能や素質をじゅうぶんに発揮し,自己の生命をそまつにしないことである。それによってこの世に生を受けたことの意義と目的とが実現される。単に享楽を追うことは自己を滅ぼす結果になる。単なる享楽は人を卑俗にする。享楽以上に尊いものがあることを知ることによって,われわれは自己を生かすことができるのである。
まして,享楽に走り,怠惰になって,自己の健康をそこなうことがあってはならない。健全な身体を育成することは,われわれの義務である。そしてわれわれの一生の幸福も,健康な身体に依存することが多い。われわれは,進んでいっそう健全な身体を育成するように努めなければならない。古来,知育,徳育と並んで体育に重要な意味がおかれてきたことを忘れてはならない。4 強い意志をもつこと
頼もしい人,勇気ある人とは,強い意志をもつ人のことである。付和雷同しない思考の強さと意志の強さをもつ人である。和して同じないだけの勇気をもつ人である。しかも他人の喜びを自己の喜びとし,他人の悲しみを自己の悲しみとする愛情の豊かさをもち,かつそれを実行に移すことができる人である。
近代人は合理性を主張し,知性を重んじた。それは重要なことである。しかし人間には情緒があり,意志がある。人の一生にはいろいろと不快なことがあり,さまざまな困難に遭遇する。とくに青年には,一時の失敗や思いがけない困難に見舞われても,それに屈することなく,つねに創造的に前進しようとするたくましい意志をもつことを望みたい。不撓不屈の意志をもつことを要求したい。しかし,だからといって,他人に対する思いやりを失ってはならないことはいうまでもない。頼もしい人とは依託できる人のことである。信頼できる人のことである。互いに不信をいだかなければならない人々からなる社会ほど不幸な社会はない。近代人の危機は,人間が互いに人間に対する信頼を失っている点にある。
頼もしい人とは誠実な人である。おのれに誠実であり,また他人にも誠実である人こそ,人間性を尊重する人なのである。このような人こそ同時に,精神的にも勇気のある人であり,強い意志をもつ人といえる。5 畏敬の念をもつこと
以上に述べてきたさまざまなことに対し,その根底に人間として重要な一つのことがある。それは生命の根源に対して畏敬の念をもつことである。人類愛とか人間愛とかいわれるものもそれに基づくものである。
すべての宗教的情操は,生命の根源に対する畏敬の念に由来する。われわれはみずから自己の生命をうんだのではない。われわれの生命の根源には父母の生命があり,民族の生命があり,人類の生命がある。ここにいう生命とは,もとより単に肉体的な生命だけをさすのではない。われわれには精神的な生命がある。