学級担任・H・R・Tのための学校教育相談入門-089/222page
これらの両者の検査データから次のような総合的な解釈を行った。
○ 今まで人に認められることが少なく,愛情欲求,自尊欲求が枯渇した状態にあり,反動としての自己顕示性が見られる。
○ 挫折感を強く感じながら,何とか自分をとり戻したいと切に願っているが,欲求不満耐性に乏しく,気持ちが定まらず,情緒のコントロールがうまくできないでいる。
○ 心理的外傷経験をもち,母親からの安定した養育をうけることができず,情緒の発達が阻害され,退行現象をおこしている。
(5) 診断
1) 中学1年の青年期前期に,父親の死で精神的にかなりのショックを受け,寂しさに打ちひしがれ,望ましい父親像が学習されなかった。
2) 放任家庭であり,母親には本人の気持ちはあまり理解されず,愛情欲求が十分に満されないで養育されてきた。
3) 集団の中において認められるということが少なく,学習意欲も育たず,無目的のまま学校不適応の状態にある。
以上のことから,情緒的な安定が得られず自我を未熟なものにし,適切に防衛機能を果たすことができず,シンナー等乱用に陥ったものと考えられる。乱用の進み程度は,関連非行が見られ,反社会的要素を多く含む性格で,しかも吸引回数も多く,養育状況からも嗜癖型に移行する危険性をもつ非行促進型と思われる。
(6) 指導方針
1) カウンセリングを通し,自己洞察を図り,自我意識の甘さと性格の弱さを自覚させる。
2) 自律訓練法により,心を落ち着かせる。ラポート形成後,催眠療法を行い,シンナー等に対し嫌悪感をうえつける。
3) 母親の養育態度を改めさせ,子供の気持ちを理解させる。
4) 担任を中心とし,友人関係の調整及び部活動の指導等適切な援助を行う。