研究紀要第29号 学習指導に関する研究 - 081/118page
W 研究のまとめ
1 前堤能力をしらべること
童話を読むために指導すべき能力の枠をおさえて,調査する。その教材のねらいに即して,そのための前堤となる力がどの程度身についているか調べる。この二つが考えられる。予備テストをして,予想を立てて,たしかめるようにしたいものである。
2 記録し累積する
例えば,童話や,物語の登場人物の気持ちをとらえさせる指導では,次のようひすることも考えられよう。
一年に,「おおきなかぶ」という教材がある。そして,「とうとうかぶがぬけたとき,みんなはなんといったでしょう。」という問いが,出されている。これに対し,どう答えたか,ひとりひとり記録しておく。テストの答えなども必要に応じ整理しておく。また,「音読」させるにしても観点をきめ,チェックしておく。ひらがなの習得なども調べておく。
このように,「ことりと木のは」,「くじらぐも」でも,気持ちを想像させて記録しておく。日常の観察も生かしくいく。選択法でも調べる。このようなことを累積していけば,次の「たぬきの糸車」の指導では,ひとりひとりが教材にどう反応するか具体的に予想できるだろう。また教材研究もより子どもの立場から深めることができるし,授業展開の過程において,子どもを見る目もするどくなり,問いも明確にでき,発言の生かし方もよくなるであろう。このようにすれば,特別な調査ということをしないでも,読みの実態をとらえることができ,それに応じた日々の指導ができるものと思われる。
要するに,「カン」をするどくみがき,深く子どもの読みのすじみちをとらえるとともに,それのみに頼らず,確実な資料を整理・累積して,子どもの能力をより正確には握することが,大切だと考えるわけである。
なお,累積したものをまとめるとき,「わく」をつくって,わかりやすくとらえることがよいと思っている。その場合,「読みとる力の違いを読みとるタイプの違いとしてとらえる―国語教育1976・12月号―」の考え方が参考になる。
4 「気持ち」の読み
当然のことであるが,「気持ち」を読みとるのだからといって,それの表現されていると思われる部分のみを読めばよいのではない。深く読みとるためには,文章全体にかかわっていかねばならない。
「とにかく,ことばによる表現は,そこに描かれるべき内容と論理的に接合されることが必要な最小限であろう。われわれは,言語表現の一つ一つをことば自体の文脈において理解すると同時に,発話の場面という文脈や,自己の経験という文脈と結合してゆく。究極的には,こうした言語外の文脈こそ,ことばという活動の中心の鍵になる。」(川本茂雄氏,ことばとこころ 岩波新書)
まず,ことばの理解からはじめて,それを文脈においてたしかめる。場面・状況をとらえ,意識するにせよ,しないにせよ,自分の経験をもとに読みとるのである。「気持ち」の読みだから,会話と行動を中心に読むといっても,決して他の叙述をあっさり読んでよいということではない。読みの基本は「文に即する」ことである。「気持ち」の読みは,より文脈に依存するということと,読みとる子どもの側に一層目を向けることが必要だと言えそうである。
5 調査のしかたのこと
(1) 「問い」のぎんみ
調査の,登場人物の気持ちを読みとらせる場合の「問い」は,一般的であり,漠としたものであったと反省している。これは,その方が多様な子どもの考えが出るだろうと予想したからだが,そうではないようである。ありきたりの答えが出てしまうようである。限定して,具体的に,こまかな問いがよいと思われる。