研究紀要第38号 学習指導に関する研究 - 005/081page
あるので,提示そのものは「一斉」であっても焦点化された生映像は,程度の差こそあれ,ほぼ共通した問題意識を持つこともできるし,学習の方法についての理解も深められるので,小集団や個別の学習に発展させる場合においてもより充実した効率的な学習の展開が期待できる。
A 映像の同時性
フィルム,TP,ビデオテープなどの記録教材と異なり,目前にあるものの一部を映像として観察している点で,「再生映像」にない現実性が加わる。
生放送であった月面着陸の様子など,現実に進行していたからこそ,真夜中でもテレビにかじりつく価値があったわけで,VTRでの再生では,その意識はかなりちがってくる。つまり,TVカメラでの「生映像」は,これからどのように変化し,どのような結果が出るのかというような期待感を持たせたり,未知なものに対する探究心を刺激するのにも有効である。しかも,演示など,目前の事象とその映像が同時に進行していくことによって,単なる映像のみの提示とちがって,その事象と同質のものとしてとらえさせることができる。
このように,肉眼で現実の姿をとらえつつ,その一部を,異ったアングルからの拡大された映像を観察していくことによって,微細な点も見逃すことなく,多方面からの観察により,総合的に事象をとらえることができるわけである。
B 提示の即時性
写真資料など,教材として価値のあるものを収集してもそのままでは直ちに提示できないことが多く,かなりの手数と時間をかけて,写真のTPを作ったり,スライド化せざるを得なかった。そのために,手元に有効な資料がありながら,用具や時間の不足から,教材化できずに授業に臨まなければならないことも度々であった。TVカメラは,これらの手数を全く必要とせず,資料にカメラを向けるだけで即刻映像化できるために,かなり豊富な資料の活用が可能になってくる。カラーカメラであれば,カラー写真や色彩で効果的に表わされた図表などを提示することによって,情意の高まりも期待でき,学習内容の理解にも益するところが大きい。
被写体は,図書資料,写真,標本,模型等の他に,子どもの作品や,作業内容等も即座に提示できる。最近OHPを利用しての児童生徒の発表場面を積極的にとり入れられるようになってきたが,自分のノートに作業したものを改めてTPシートに書きなおしたり,TP作成機でTP化するなど,提示するまでに一過程を要したわけであるが,TVカメラでは,その必要はなく,現物そのままで提示できるし,必要部分を拡大することもできる。また,子ども達が好んで用いているマーキングペンや色鉛筆,あるいはボールペンなどの色彩効果も出せるので,喜んで発表に臨んでくれ,意欲的な学習活動ぶりを見せてくれる。
C 反応に対する即応性
一連の認知過程を組込んだ映画・テレビなどの教材においては,そのストーリーそのものが重要なものとなっており,しかも,その内容の展開や進め方も制作者の意図によって提示され,視聴側の反応に応じることはできない。その点,OHPやTVカメラによる生映像は,教師(子ども)のはたらきかけに対する子ども達(他の子ども達)の反応に応じて,提示の速さ,内容,あるいは指示の方法などを変えることができ,ひとりひとりの反応を考慮に入れたはたらきかけが可能である。更に,TVカメラは,OHPと異なり,カメラアングルを変えたり,拡大したりすることが即座に行うことができ,一つの事象や事物をもとにして多様な映像をつくることもでき,その場に即応した提示ができる。
以上のように,TVカメラによる提示は,機器の操作も簡単であり,数多くの長所を持ち合せている。しかし,そのために情報過多になったり,提示された内容が,逆に子ども達の柔軟な考え方を制限したり,その余地を与えなかったりするような一方的な提示にならないよう留意しなければならない。資料そのものは学習内容として十分な