研究紀要第51号 「学習指導の個別化 個に応ずる研究」 -035/080page

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る抽出生徒の学習活動をとおして,更には,検証授業における諸調査資料を手がかりに検討して,解決策の有効性と抽出生徒の変容について,考察していくことにする。

[1]  A子の場合 (上位生徒)

授業を効率的に進行させ,学習目標を達成するためには生徒個々に学習課題を明確に把握させることが必要である。

A子は,教師の働きかけにより,「学習のめあて表」(解決策□1)によって,学習課題を把握し,更に,「自己評価票」(解決策□3)から既習内容のつまずきや到達度を確認し,より確かな学習課題を設定している。「自己評価票」において,A子は,検証授業の前半では,「めあてがつかめない」「学習したくない」と記録していた。しかし,後半では,「めあてがはっきりした」「楽しく学習できた」に変化している。これは,「学習のめあて表」の使用目的が理解され,具体的使用に慣れた成果であろう。

学習において,方向性を見出すことが,学習目標を達成するのに,いかに効果的かは以後のA子の学習活動が如実に示しているところである。

明確な学習課題を設定したA子は,目的的に活動し,課題の解決にむかって,授業の中でも教師の指示に対して,大声で発表したり,すばやく例題を解くなど積極的に反応した。

「強化」の段階に入ると,形成的評価問題の結果をもとに学習コースを選択させ,分枝型学習形態をとり,個に確かを学習が成立するよう教師の働きかけが行われた(解決策□2)。

A子の学習コース選択のようすは次のとおりである。

月日 形成的評価問題 学習コース 小テスト
問1 問2 問3 問1 問2 問3
11・4 C
11・6 C
11・8 × B→C

11月4日実施の授業において,A子は,形成的評価問題を解き,全問正解を確認して,Cコースを選択した。Cコースにむいても,すばやく解答したが,たしかめの結果,1問が誤答であった。それは,2−5=3の単純ミスであり,計算のし直しによりつまずきはすぐ発見された。同様のミスは,11月8日,形成的評価問題問3でも見られた。検証授業後の「学習指導カード」のなかに,教師は,「整数係数に直しながら,右辺の正負の数の加法であやまり,つまずいている」と所見を記入し,この単純ミスは,「神経質で,〜軽率な面が見られる(Y−G性格検査)」という性格面にも起因すると,教育相談の必要を考えている。

A子にとって分枝型学習は,適応していたのか,事後の感想文で,「コース別に学習することで,とても意欲的に学習できるようになった」と書いている。また,イメージテスト事前の「ふまん・つまらない」の非好意的イメージが,事後に「まんぞく・おもしろい」と好意的傾向に転移しており,分枝型学習の適応を知ることができる。

形成的、評価によるコース選択は,A子の能動的な学習態度を重視し,尊重したことで,満足感を充足させ,結果として,より能動的な学習態度を形成したようである。

「確かめ」の段階では,小テストを実施し,自己評価させた。A子は,検証授業を通して全問正解を記録した。ただ,この段階で行われた自已評価については,もう少し,自己理解を深め,新たな課題発見の場として,その手法に一考を要したいところでもあった。

最後に,この検証授業の事前・事後に実施されたテスト結果を記そう。A子の正答率は,事前33%,事後100%であった。A子は,「自己評価票」に「理解できた,楽しい」と書き,内的報酬の喜びを記している。

抽出生徒A子を観察して,改めて,学習者を独立した一人の人間として尊重しなければならないという原理と,教師は,一人一人の学習のニーズに応じた学習活動を用意しなければならないことを知らされた。


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