研究紀要第51号 「学習指導の個別化 個に応ずる研究」 -036/080page
[2] B子の場合 (中位生徒)
B子は,事前アンケートに数学は「きらい」と答え,その理由を「数学は得意なほうだけれど,授業がつまらなくて,すぐ反抗したくなってしまう」「手を挙げないことが多いが,授業で全く指名されないので,やる気がでない」と書いている。
そのB子が,事後の感想文で,「前よりちょっぴり数学が好きになりました。今までは,授業がつまらなかったけれど,学習法がわかったとたん,授業内容がおもしろくなってきました。そのため,やる気がでてきました」と書き,数学への興昧・関心,そして,なによりも意欲を見せてきた。
本研究のねらい達成のためにとられた指導法は,一人一人の生徒が,学習のめあてを知り,自己のつまずきや到達度を確認し,個に応じた学習コースを選択し学習させる方法である。
検証授業において実践されたこの指導法は,B子を学習に引き込み,主体的に学習する動機づけをつくったことになる。つまり,興味・関心を高め,更には,強い学習活動意欲を促し,自ら学習しようとする積極的・自発的な心理状態をつくり出すきっかけになったわけである。
「学習のめあて表」により,課題を把握したB子は,課題の解決にむかって能動的に学習に参加した。その参加のようすは次のとおりである。
月日 形成的評価問題 学習コース 小テスト 問1 問2 問3 問1 問2 問3 11・4 ○ ○ × B→C ○ ○ ○ 11・6 ○ ○ ○ C ○ ○ ○ 11・8 ○ ○ ○ C ○ × ○ 11月4日実施の授業において,B子は,形成的評価問題を2問正解して,Bコースを選択した。Bコースの問題を解き終えた後,Cコースに進み時間となり,小テストを受け全問正解であった。
11月8日の授業では,Cコースを選択したが,11問中9問正解で,事後の「自己評価票」には,「分配法則の計算で,片方にかけるのを忘れてまちがえた」と記入している。自己のつまずきを発見し,正しく評価している。教師も「自己評価票」に「自分でよく反省ができているから,今度は大丈夫だよ」と激励のことばを書き入れて,生徒の能動的な学習態度の醸成に細かい心遣いを見せている。
教師のこの心遣いが,教師と生徒のより好ましい人間関係を形成し,これが基盤となって,個の能力が開発される。B子の変容は,その好例と見られる。
数学の授業において,問題を解いて,正答をだせるということほど楽しいことはないと思われる。B子は感想文に,「最近は,計算ができるようになった。つまずくこともあるが〜やっと解けた時はとてもすっきりします」と,解く楽しみや満足感・充実感を書きしるしている。
そして,「計算ができるようになった」理由として,「〜学習法がおもしろくて,前とかわっていてやりやすいので〜」と,分枝型学習をあげている。
このことは,B子の学習のぺースを尊重した分枝型学習が,B子に適応していたと解する証左とみてよいだろう。
新しい学習法を身につけたB子は,「〜これからは,数学が得意な科目となるようにがんばりたいと思います」と感想文で決意を述べている。
この感想には,真実性があると思われるし,書かれている決意もその場限りのものではなく,以後の授業に反映されるであろうと期侍できる。
数時間の検証授業において,このような変容をみせたB子の事例は,特異なケースかもしれないが,このような生徒がでたことも事実である。
B子の観察を総括すると,「学習のめあて表」と「自己評価票」が有効に機能した時,具体性をもった課題を設定し,しかも,課題の解決にむかって,能動的な学習活動を展開している。ここに,「学習のめあて表」や「白已評価票」の有効性を知ることができよう。
また,学習者の課題に即した「学習プリント」についても,難易度を考慮した作問が適切で,更に学習者のぺースを尊重したコースが設定されており,個に応じた効果的な学習への手だてであった。
本研究で示された,学習の手だては,B子のような中位生徒に,より有効に作用したと考える。