研究紀要第51号 「学習指導の個別化 個に応ずる研究」 -037/080page
[3] C男の場合 (下位生徒)
C男の性格は,AB型,平均的な性格であるがやや活動的な面が強い。特徴としては,楽天的で社交性もあるが,時には攻撃的になることもある(Y−G性格検査)。次に,数学の学習への取り組みとしては,基本的な内容に対する理解が劣っており,ややあきらめ易いところがある。そのため,つまずきやわからない箇所をそのまま放置しておくことが多い(学習指導カ−ド)。
C男の方程式の学習におけるレディネスは,正負の数や文字式の計算の技能が十分身についていない。また,文字の意味もよく理解しておらず,数量間の関係を文字式で表すことはぽとんどできない(前提条件テストの結果)。
以上の諸事項をふまえ,C男に対しては,楽天的な性格で指名すれば発表しようとする意欲も見られるので,基本的な問題を中心に指名したり,机間巡視による個別指導に心がけ"やればできる"ことをわからせていくようにする。正負の数の計算については,事前に小集団での指導をして確実に理解できるようにしておくという方針をたてた。
C男は,これまでは,学習のめあてなどほとんどわかっていなかったようだが,「学習のめあて表」(解決策□1)によって,めあてが明確になるとともに,今までどんなことを学習してきたか,更に今後どのように進んでいくかがよくわかるようになってきた。それは「自己評価票」(解決策□3)に「学習の内容や,めあてがわかりたのしくなった」と記録していることでも明白である。
ただ,わからないところをそのままにしておく傾向が強いので,指導上特に留意していかなければならない点である。
C男の学習コ−ス選択のようすは次のとおりである。
月日 形成的評価問題 学習コース 小テスト 問1 問2 問3 問1 問2 問3 11・4 ○ × × A ○ ○ × 11・6 × × × A ○ × × 11・8 ○ × × A ○ × × 11月4日の授業でC男は,形成的評価問題(解決策□2)に取り組んだが,文字式の計算,正負の数の加法計算に誤りがあったため,1問しかできなかった。小テストは3問中2問できていた。
このように正負の数の加法計算というような基礎的な事項が,正しく理解され身についていないためにおこる誤りが多いのである。「自己評価票」の教師欄には「+3−8=−4?−5ですね。正負の数の計算をまちがいなくしよう」と,C男に対し注意をうながしている。
11月6日の授業では,つまずきの解消ができなかったようである。「かっこははずせるが,移項のしかたがわからない。左辺にxの項を,右辺に数の項を移項するように」と,教師からの指導があった。小テストは,3問中1問正答であった。
11月8日の授業では,形成的、評価問題は1問だけ正答で,文字式の計算につまずきがみられ,その問題に取り組み6問中6問正答であった。しかし,小テストは,3問中1問の正答であった,「わからない点は,決してあきらめず質問して下さい。〈1〉の移項のつまずきの問題から取り組んだらどうですか」とC男のつまずきや到達度をおさえた適切なアドバイスをしている。
このように,下位生徒C男へのあたたかい,しかも適切な教師のはたらきかけによって,C男なりの変容が認められるのである。
それは,あまり興味・関心を示さなかった数学が,「たのしいもの」「おもしろいもの」(イメージテスト)に変容している。その傾向は,事後の感想文をみると「……方程式のプリントをわたされたときは,ぜんぜん何がなんだかわからなかったが,数学の授業をうけてなんとなくわかるような気がした。今では,よくわかる」と書いている。事前・事後のテストを比較してみると,事前テスト正答率7%に対し,事後テストの正答率は47%と,伸びが認められる。
以上のことから,方程式の解き方については,基本的なものはかなりできるようになってきているが,やや複雑なものについてはもう一歩というところである。現在の意欲を大切にして,継続して指導を重ねていく重要性を感じている。