研究紀要第51号 「学習指導の個別化 個に応ずる研究」 -071/080page

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(5) 抽出生徒の変容

[1]  B子の場合 (上位生徒)

B子は,3年生の4月に転校してきた生徒であり,一人っ子である。そのためか,力がある割には,常におどおどした態度がみられる。たしかに,教研式中CRTの評価は4で,能力的には上位にあるが,Y−G性格検査の判定ではC(社会的適応消極型)で,性格的には消極的な生徒である。したがって,B子の日頃のおどおどした態度は,性格的なものと,転入という環境の変化からきているのであろう。

英語学習に対するアンケートの結果では,「英語は好き,予習復習は大体する,授業には学習のめあては大体わかって参加する,わからないことはそのままにしないで先生や友だちに聞くなどして解決する」としており,英語学習に対しては深い関心をもっている等,おおむね好ましい態度がみられる。

能力もあり,学習に対する関心もありながら,性格的なものと,転入という環境の変化によって,学級の中で十分その持てる力を発揮できないでいるのではないか。

そこで,指導のめあてを,次の二つにした。

積極的に,自信を持って,伸び伸びと学習する生徒
精神的な自信をバネにして,英語の力を高めようとする生徒

なお,指導の機会と方法は,次の二つにした。

一斉指導の中で,励まし,力づけ,賞賛によって,学級集団の中での自己実現を図る援助をする。
個別的には,質問を受ける形で,励まし,力づけて自信を持たせ,それが授業の中に転移するように援助する。

以下,検証授業を通して,B子の変容の様子をみることにする。

授業中のB子の学習態度はひかえ目であるが,「学習のめあて表」によって課題を正確に把握しており,まちがいは非常に少ない。導入段階で,絵を使った自由表現のQ and Aでは,一つの小さいミスのほかは全部正解であった。自己評価ではこのミスを考えてか,1ランク下げてBコースを選択した。基本文の理解,運用度の確認の指名を受け,正解であったが,声が極めて低かった。また,教師から賞賛を受けても,得意気な表情ではなかった。コース別学習課題では,〔2〕の2で,「to ski」とするところを「to play ski」としたが,その後は全部正解であった。アンサーポールの使用に関して,「少しめんどうですが,先生といっしょで心配がない」と述べているが,消極的なB子にとっては,このアンサーポールでの教師とのコミュニケーションは,性格的に合うのかもしれない。

第31回目の検証授業になると心なしか,授業中の態度にも,余裕のようなものが感じられる。隣の生徒に声をかけられると笑顔で受け答えしている。指名されての答えの声も高く,教師の賞賛も素直に受容している。斉読の場合にも,B子の声がそこから聞こえるほどになった。机間指導を受けた際にも,前回は顔を赤らめていたが,今回は落ち着いて返答していた。コース別学習課題は,慎重にAからはじめて,Cに至っている。

事前,事後テストの結果も,27点満点で事前が18点,事後が26点になって向上のあとがみられた。授業,成績の上でも,変容のきざしがみえはじてきた。授業後の友だちとの談笑もほがらかで楽しそうであった。

個別指導の経過を見てみよう。最初は質問に来る勇気がなかった。授業中や廊下などで声をかけるとうれしそうな表情をするが,すぐ顔を赤らめる。指導を継続した結果,1ヵ月ぐらいたってから質問に来た。ただし,友人F子とである。時間をかけて話し合い,励ましを重ねると,態度にもゆとりが出てきた。11月になって,ついに一人で質問に来た。

B子の場合,当初のめあてのとおりには,まだまだであるが,心を開きはじめ,変容のきぎしが見えてきた。3月までの間には,確実な学習態度,学力の変容を期待して,指導を進めていくことが大切であろう。


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