研究紀要第51号 「学習指導の個別化 個に応ずる研究」 -072/080page
[2] C男の場合 (中位生徒)
C男は,教研式中CRTの評価は3で,中位に位置し,Y−G性格検査の判定ではD´(社会的適応積極型)である。
授業態度からは,静かで余り目立たないが,常に注意力を集中させて授業にのぞみ,よく頑張っている,という印象を受けた。
C男の英語の学力を総合的に考察すると,3領域については平均した力であるが,4技能の中では,聞くことの分野にみるべきものであるといえる。しかし,応用力にはやや欠けるようである。
そこで,指導の重点を次のようにした。
○ 音読の際,スピードは自然でよいが,口を余り開かない傾向があるので,抑揚や〔 〕,〔 〕等の発音に気をつけさせ,元気な音声でさせる。 ○ 疑問詞で始まる問には抵抗があるので,長い文で答える練習を多くさせる。 ○ 自由表現の際の働きかけを適切にし,応用力をつけさせる。 ○ 最近は,よく質問をするようになったので,面接やコメントによって意欲づけをする。 次に,検証授業を通してのC男の変容をみる。
形成的評価問題としての,理解度の確認をする英問英答では,その聞く力を存分に発揮し,「補説問題にはおせわにならなかった」と本人が事後の作文で書いている通り,最初の質問でいつもアンサーポールを青にして,余裕のある学習ぶりが目についた。したがって,コース別学習のコース選択においても,当然のごとくCコースを選び,個別指導にあたる教師の賞賛,激励を受けて,積極的に自由作文に挑戦していた。教師からの賞賛のひとことが,生徒の学習意欲を盛りあげるのにどれぼど強いものであるのか,彼は作文の中でも「先生にほめられたことがうれしかった」と述懐している。
C男の場合,自由作文はまだ満足のいく表現にはなっていなかったが,文構造や語順などに関して十分な時間をとって個別指導を強化すれば,もっと実力は向上するように思える。
彼の感想文をみると,「学習のめあて表」について大変気に入ったようで,これにより,わずかな予習時間で次時の学習事項やめあてをつかめることを歓迎している。たしかに次の授業で,何を学習するのかをわかって授業にのぞむのと,手ぶらでのぞむのとでは,その心構えも異なる。目標を明確にできるという点でも「学習のめあて表」の効果は大きい。他の生徒の質問にまで首を突っ込んで聞きにくるぼど質問回数が多かったC男が「学習のめあて表」を利用するようになってから質問の回数が減ったという徴候観察記録による教師の所見についても,この「学習のめあて表」により,はっきりと学習目標をとらえ,十分な予習を重ねて授業にのぞめるようになったからだと解釈したい。
分枝型の学習形態についても,コース別に問題をやっている間,教師がまわってきて一人一人に個別指導の手を差し伸べてくれることを非常によろこんでおり,この学習形態を好意的に受けとめている。生徒にとって,教師から賞賛・激励されることと同様,個別指導に少しでも多くの時間を取ってもらえることは,何にも増して待ち望んでいることであり,やる気をおこさせる大きな原動力となっていくのではないだろうか。C男が日頃先生の熱意ある指導ぶりに畏敬の気持を抱いているにもかかわらず,英語は「どちらかといえばきらい」と事前アンケートで記入していたのが,事後のアンケートでは「どちらかといえば好き」とまで変化してきたのも,こうした前向きな姿で積極的に学習に取り組もうとする生徒にとっては,教師からの援助・指導のひとことが,学習を進めていく上で大きな支えになっているからであることを如実に示しているように思われる。
このように,すぐには学力面での大きな変容は認められなくとも,日頃の個に応じた教師の適切な指導が,一つのステップとなって以後の学習意欲につながり,ひいては学力の向上を捉がすものと思われる。その学力を基盤として,英語で表現するよろこびを与えることができたとき,本当の意味で,生徒の変容がみられたものと判断すべきであろう。