研究紀要第51号 「学習指導の個別化 個に応ずる研究」 -076/080page

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での形成的評価は,単なる指導過程の中での評価にとどまらず,言語活動の場としての展開であったことは特筆すべきであろう。更に,日常生活の中から題材を選んで行う補説英問での追指導は,個々に英語で表現できた喜びを高めるものと考える。

さて,コース別学習課題であるが,本研究の特色は,A・B・Cの難易度が「学習のめあて表」の予習的課題,形成的評価問題,補説問題,そしてコース別学習課題と一つのセットにして個に応じようとしているところにある。したがって,生徒たち自身は,自分のめあてをはっきりさせて授業に参加し,到達度をしっかり掌握して学習を続け,自分なりに英語で表現した満足感を味わうことができたわけである。このことは,生徒たちの「自己評価票」や事後の感想文で明らかである。

次に,コース別学習課題そのものの考察をする。
まず,AコースのT or Fテストであるが,英問に答えるには学力的に無理なごく少数の下位群の生徒たちのための課題であると考えていたが,研究が進むにつれて,中,上位群にも,すばやく英文の要点を把握する力を養う意味で効果的であった。BやCからはじまった生徒にも「Aの問題をやってごらん」の働きかけは適切な指導であった。Bコースでは,Q and Aの他に,絵を用いて場面を設定して自由表現をさせようとしたものであるが,目標文を必ず取り入れた配慮がよく,教師の援助により意欲的に行っていた。Cコースはやや高度なQ and Aと文で場面を設定した自由表現であったが,言語材料の使用などについての指導・援助が効果的で,内容のある英文を発表できるまでに変容した。

解決策□3 「自己評価や反省を『自己評価表』に記録させ,教師のコメントによる指導において個に応じた働きかけをし,お互いの人間関係を深めるとともに,学習意欲の向上につなげるように配慮する」について

生徒数が40名ということもあって,授業中の机間指導だけでは十分な働きかけができない。そのために有効に活用できたのが「白己評価票」である。ある上位群の生徒は,Cコース〔2〕の自由表現のあと,自分の成就感を「自己評価票」の反省の欄に,「It〜toの構文を使って,自分の趣味について英語で表現することができてとてもうれしかった,これからも習った文型を使って,どんどん自分の身のまわりのことについて言ってみたい」と記録している。教師は,この生徒の今の気持を持続させようとする配慮のもとに,すぐさま適切なコメントを与えたわけである。いわゆる,学習指導の個別化を図る場を,英語の授業中だけでなく学校生活全体を通して余韻が残るような場にまで広げていこうとしたことに本研究の意義があろう。

もちろん,「自己評価票」のコメントだけで個に応じた働きかけができるはずはない。本研究を通じて,むしろ「学習指導カード」や「徴候観察の記録」の活用のほうが有効であったと思う。しかし,生徒と教師の信頼関係を深めるうえでは,まさに大切な個別化のための資料であった。授業者は感想文の中で「教師の返信による指導が,どんなに生徒の次の学習への意欲を起こさせるか,改めて認識した」と述べている。

(2) 今後の課題

この研究を進めてきた中で,反省すべき点がいくつかあげられてきた。それらの中から今後の課題として,次の三点について述べる。

[1] 「個に応ずる」ための資料の活用について

さまぎまな特性をもっている生徒一人一人に正しく応じようとする配慮のもとに,本研究では,教科特有の要因と一般的要因の両面から個をとらえ,「学習指導カード」にまとめ,研究全体を通して活用してきたわけである。しかしそれは固定的なものでなく,むしろ,心身ともに成長発達途上にあり,日々流動的な生徒に対処するためには「徴候観察の記録」のような,積み重ねていく資料を重視すべきであろう。

各種課題については,学力差に応じられるように,3段階にし,しかも一つのセットにして提示したのは効果的であったが,一連の資料の数が多すぎ,繁雑であったと反省している。今後はこれらを整理統合して活用する必要があろう。


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