研究紀要第53号 「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ 第1年次」 -002/042page

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ウ.学習意欲を自律的なものに限定するのか。
エ.学習を教科学習に限定するのか。
など,学習意欲をどの視点から,どのような範囲でとらえるかにより違いがみられることにも帰因しているものと考えられる。

広辞苑によると,「意欲」について次のように解説している。

積極的に何かをしようとする気持ち。
種々の行動の中から,ある一つを選択して,これを目標とする能動的意志活動。
狭義には,当為に対する主観的意志活動,すなわち任意気随を意味する。

たしかに,この語が示すように,多くの欲求,動因,要求と,それに対応する目標の葛藤の中から,「意志」の働きによって,選択,決断され,その実現まで追求される「動機」である。単なる欲求としての「欲」だけでなく,意志としての「意」が働いて「意欲」と呼ばれるわけである。

教育事典によれば,「学習意欲」の項には概略次のような解説がなされている。

学習意欲とは,学習者が学習活動に主体的,能動的,積極的にとりくむ一連の行動を通じて推論される学習者の内部的な状態のことであり,学習活動を喚起し,持続させ,方向づけ強化する機能の背後に想定される行動傾向を意味し,平易なことばでいえば「やる気」といわれるものである。

学習意欲の本質は,「やりたい」「やりたくない」にかかわらず,「やらなければならない」から「やる気」になることである。この「やる気」を筑波大学松原達哉氏は三つに分析してとらえている。

1) 興味が「やる気」を起こす背景の場合
この場合は,「やりたくなければ」やる気は起きないし,「やりたくなくなれば」やる気は消失する。これは遊びの姿勢であって仕事とか勉強の姿勢ではない。

2) 意志が「やる気」を起こし支えている場合
この場合は,「やりたくなくても」「やりたくなくなっても」「やらなければならない」からやる気になっているのであって,あるものを動機として選択決断し,その実現まで耐えていくという意志の働きにささえられているもので,この場合こそが,心理学でいう学習意欲であり勉強とか仕事の姿勢である。

3) 興味や態度と意志とが同時に重なりあって「やる気」を起こす背景の場合
この場合,「やらなければならないこと」に「やる気をもたせる」ために,できるだけ,「やりたい興味のあることを」を多くとり入れて「やる気」をおこさせ,その活動や作業の要請する行動に成功し,動機を満足する経験を重ねることによって「やりたい態度」が育ち,「やらねばならない」と重なってくる育てられた学習意欲である。

また,従来からなされている学習意欲に関する定義をいくつかとりあげてみると,

学習に対して強く動機づけられた状態。
価値的な行動変容ないし人格変容の欲求。
基本的欲求として考えられるものが,学習場面に向けられたものであって,学習への動因となり,学習活動を推進させるもの。
教科の目標から要請される課題を,学習者自身が自己の目標として選択し,その達成のために行動をひき起こし,種々の障壁があるにもかかわらず,あえてそれを持続させようとする動機の状態。
自発的に学習活動を展開し遂行しようと意欲すること。
学習活動に対する学習者の意欲,つまり,進んで勉強しようとする児童・生徒みずからの積極的関心。
など,さまざまな定義づけがなされている。

本研究では,東京学芸大,下山グループが学習意欲の構造に関する研究(1)で,学習意欲の特性として,その自律性,自発性,価値志向性を重視する立場をとりながら,学習意欲の構造を因子化する作業を進める際に定義づけられた,
「学習意欲とは,種々の動機の中から,学習への動機を選択して,これを目標とする能動的意志活動をおこさせるもの」


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