研究紀要第53号 「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ 第1年次」 -005/042page

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られていたものである。しかし,今回下山グループで開発された学習意欲検査は,学習意欲そのものをとらえようと試みられたものである。

学習意欲の構造としてとらえた8因子は,各5項目の質問からなり,合計40項目の質問に応答させることによって,一人一人のP得点(学習意欲を高める積極的側面の5因子の合計得点)と,N得点(学習意欲を阻害する消極的側面の31因子の合計得点)を求め,そこから8因子の合計得点であるT得点を得て,学習意欲の強さを診断しようとするものである。

ここで大切なことは,トータルとしての強さをみたT得点にだけ注目することのないようにすることである。T得点が同じ子供であっても,8因子,個々のP得点やN得点のどこに落ちこみがあるかといった面からとらえた場合,必ずしも同じではないはずである。個々の因子にみられる問題や,学習意欲を構成する因子のどれが優位なのかをとらえて指導に当たることが効果的である。

だが,ここでとらえることのできた学習意欲は問診的なものであり,これだけで子供の学習意欲の実態をとらえたことにはならない。これらの8因子や,因子を構成している各質問項目を参考にして,教師が観察や面接を行い,子供の動作や態度から学習意欲の強さや表れ方を的確に把握しておくことが必要である。

(4) 学習意欲の高い児童生徒とその類型

東京工業大学の坂元研究室(学習意欲研究会)では,学習意欲が高いと評価される児童生徒の行動特性を抽出し,その結果を明らかにして,それに基づいて学習意欲を開発するための具体的な目標を設定することを目的とした研究を行った。この研究の結果として,従来学習意欲の開発を問題にする際に,しばしば学習意欲の高い児童生徒の単一の像が想定されるが,学習意欲が高いという児童生徒の行動特性は単一のものではなく,非常に多くの異なった要素から成り立っており,その表れ方もそれぞれの子供によって異なっているというとらえ方に注目しなくてはならないとしている。このとらえ方は前述の学習意欲検査においてT得点にのみ目をうばわれることなくP得点,N得点のプロフィールからどのようなタイプに分類し,その結果どのような指導を行うべきかという実践への手だてを考える上で参考になるものである。

坂元昂氏らは,小・中・高等学校を通じて学習意欲が高いと評価される子供の行動特作を調査し,その調査結果を因子分析,クラスター分析することによって8つの学習意欲の高い児童生徒の類型を求め,図3のような立体構造にまとめている。

図3 学習意欲の立体構造
図3 学習意欲の立体構造

名称 主因子法による
共通構成因子の
パターン
タイプ
つなげる子
ひろげる子
もとめる子
おしだす子
まもる子
まとめる子
つめる子
つくる子
・動・協力・行動
・動・協力・言語
・動・独立・行動
・動・独立・言語
・静・協力・行動
・静・協力・言語
・静・独立・行動
・静・独立・言語
協力型
探索型
追求型
能動型
責任型
自立型
努力型
熟慮型

これらでみられるように,学習意欲が高い子供といっても,どのような因子が優位で,どのような表れ方をするかはさまざまであり,教師のかかわり方も多様さが求められることが理解できる。


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