研究紀要第53号 「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ 第1年次」 -010/042page

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教育,学校教育,さらに現在の人々の生き方などに大きく影響を及ばしていると思われる社会的要因について考えてみたい。

[1] 科学技術の進歩と情報化社会

科学技術が進み,情報量が多くなると必然的に多量の知識が要求されてくる。そのため学校教育でも教える内容が多くなり,さらに難かしくなってきた。従って自然に授業内容についていけず学習意欲をなくしてしまう子供たちが多くなっていることが考えられる。

この問題は社会の中での学校教育の役割を根本的に考え直す必要がある。

[2] 学歴偏重の社会

学歴により就職の際の賃金から,その後の昇給,昇進にも違いが出てきている。また,学歴の有る無しを人間性の良し悪しに結びつけて考える風潮が世の中にはある。このようなことから学歴を重んじる傾向が強まり高学歴社会が到来したのである。このため家庭も学校も自然にこのうずに巻きこまれ受験競争が激しくなってきた。子供たちは興味や能力とは無関係に学業に追い立てられることになり,必然的に学習に対する興味を失い学習意欲をなくしている子供たちが増加してきているようである。

このことからも人間的価値とは一体何なのかを根本的に考えてみる必要があるように思われる。

[3] 都市化と管理社会

科学技術の進歩に伴う産業構造の変化が人口の極端な片寄りを招いた。そのため都市化と過疎化の現象を招きそこに住む人々の意識,態度,生活様式が変化してきた。都市部では人口が増加し住民相互の社会的接触が少なくなり相互理解が欠け冷やかな人間関係が生まれてきた。このようなことから,住民全員が人間的欲求の満足が得られず孤立感と焦燥感を持ち,精神的に安定を欠く結果となっている。また,都市化の反面,人口流出地域では老齢者だけが残されて活気のない集団へと転化し,地域のまとまりがなくなり同じ様に相互理解が失われてきている。

また,生産第一主義の管理社会では,生産性を高めることが第一で,それに直接貢献しそうもない親切心や思いやりなどは軽視され,ひいては人間性の否定にもつながってきている。さらに,管理がすみずみまですすみ,個性を発揮する機会がなくなってしまった。このことは人々の関心が与えられたことだけをすれば良いという当面の課題処理にだけ向けられることになり,努力すれば望むことが達成できるという気持ちを捨てさせることになってきている。このようなことが現在多くの人々にまん延していると言われ問題となっている無力感の主な原因と考えられている。

つまり,社会全体に精神的不安定さと無力感が見られることは家庭や教育現場にも良い影響を与えているとは考えられない。現に,三無主義や五無主義の子供たちの増加が見られる現象からもうなづけることである。

以上のような社会を望ましい方向へ導くことは一朝一夕にできるものではない。しかし,社会の現状を深く見つめ,その上で子供たちに対処する必要があると考えられる。

(5) 学習意欲と学業不振

学習意欲の低下や欠如が学業不振に直接結びつくとは限らないが,往々にしてそれらの関係は多く見うけられる。そこで,学習意欲の構造的とらえ方を基に学業不振をみると図5のような構造が考えられる。つまり,学習方法・態度・基礎学力の一次要因が学習内容の理解を左右する。この一次要因を決定づけるものとしては,本人,家庭,学校の二次的要因があり,さらに,二次的要因に強く影響を及ぼしている社会がある。この構造を基に学業不振がたんに表面だけの問題なのか,それ以外の問題を含んでいるのかを考えることができる。さらに,学業不振児に対する働きかけも考えることができると思われる。

以上のことより,学習意欲の向上は,たんに,学業成績の向上だけにとどまらず人間形成という広い立場でとらえなければならないと思う。つまり,学習意欲の向上は教科指導だけでは達成されず人間形成に必要なあらゆる面からの働きかけが


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