研究紀要第53号 「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ 第1年次」 -034/042page

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人間の不適応行動を改善するために,その人の行動を分析し,さまざまな条件を入れながら治療目標を決め,その目標に到達するためにさらに具体的な目標を決めて,系統的に行動の改善を図る。

つまり,階段を一歩一歩昇って行くように,一つ一つ目標を達成していけば,最終的目標に到達するという考えである。

学習意欲を失った子供の学習意欲を高めるという目標を考えると,まず6ぺ一ジ図4「学習意欲に影響する要因」をもとに,子どもの行動を分析することから始める。

つまり,学習方法,学習態度,学力等を分析し,具体的な目標をきめて,実行しやすい目標から順序をきめて実行していく等の方法である。そのためには,子供の実態や原因を的確に把握することや,実行可能な具体的な目標を設定すること,目標の数をあまり多くしないこと,最終目標を達成するためのステップとしての具体的目標にする等が大切である。

以上の方法で不適応行動を一つ一つ改善し,のぞましい生活態度や人間関係のありが確立されていく過程の中で学習意欲が高まるのである。

この療法の過程で,目標を決める能力,目標を最後までやりぬく態度,決断力と学習適応態度等が高まることになる。

[3] ロールプレーイング

自由な即興演技を中心に展開される集団心理療法である。ロールプレーイングは,脚本のない演劇で,自分の役割を自由に演じたり,他の演技を観ることによって,問題解決の方法をみつけたり自分の現実の姿を自分でみることができるようになる。監督,演者,補助自我,観衆によって行われ,治療を受ける人の持っている問題を主題にして自発的な劇が行われる。学習意欲に関連した主題としては,両親を対象として「テレビばかりみている子供に学習をすすめるときにどうかかわったらよいか」「計画的に学習するようにしむけるには,親としてどうかかわったらよいか」等がでてくる。また,子供に関しては「答えがわかっているのに挙手できない時」「グループ学習の時の話し合いに参加する時どうしたらよいか」等である。ロールプレーイングでは監督の役割が重要である。方法を述べると,最初の導入の段階でウォーミング・アップを行う。ウォーミング・アップが適切に行われるなら演者の自発性と興味・好奇心がわき起こって主題設定が容易になる。

何回か行っていくうちに,監督は,観衆の反応を敏感にとらえ,演者の役割行動を解釈したり分析したりすることになる。特に演者の無意識的な言動や演者自身の感想は重視されなければならない。

また,監督の治療者としての態度も大切である。たとえば,ときには,指示的であったり,ときには,受容的であったりする態度が,演者の内面的な世界に潜む心理的葛藤を場面の中につくりだすのである。このことによって,演者は,自発的に,自分の経験から出た言葉や動作の意味を発見するようになるのである。

次に補助自我のことであるが,補助自我とは,ロールプレーイングを創案したモレノの用いた用語であり,簡単に言えば,監督の助手の役割をつとめると同時に治療を受ける人の助手にもなる人のことである。

従って,補助自我は,演者の共演者として舞台に登場し,演者の内的世界を表現しやすいようにリードしていくわけである。しかも,ときには演者に対してカウンセラーの役割を演じる場合も必要なのである。カウンセラーの役割のときは,監督とサインでやりとりする方がやりやすいことになる。「もう一度そこをリードせよ」とか「しばらく沈黙せよ」とかのサインを監督が補助自我に行うことによって補助自我が演者をリードし,心理的な深まりをつくることができるのである。

演者と観衆については,監督,補助自我である程度述べてあるので簡単に述べることにする。

演者は,自分でつくりだす脚本の人物になりきって習慣化している役割行動と,空想的な役割行動を自分なりに真剣に演じなければならない。そうすることによって,演者自身の行動が変容し,新しい生き方が発見されるのである。


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