研究紀要第53号 「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ 第1年次」 -038/042page
D 積木遊び
この遊びには,次のような特質がある。
・ 攻撃性の解放を促進させる。何を言っても,何をしても,治療者が受け入れてくれると感じる時,子供は罪障感をすてて,真の感情を表現する勇気を獲得するのである。つまり完全な受容は感情の解放をもたらす。子供が安心して騒いだり,汚したり,乱暴することによって,子供の感情的緊張は軽くなる。従って,心の安定が得られる。
・ 成功感を与える。誰にでも遊べ,自分で満足のいく作品を作りだせる。内気で消極的な生活態度の子供や,場面緘黙児等は,それまで周囲から「しゃべりなさい」とか「どんどん動きなさい」などと数限りなく言われてきている。このような場合,治療者は話すことを強要せず,話したくない,動きたくない気持ちを受容してやると,後で親に「遊びが,とてもおもしろかった」と報告したりする。
・ 社会性を促進する。この遊びを集団でやらせると,遊戯室の隅で一人で遊んでいるような引っ込み思案の子供でも,次第に集団遊びへ参加してくる。
・ 安全感を充足する。子供に絶好の隠れ場所を提供するので,安心して遊べる。また,部屋にいて全然動かず,しゃべらない子供でも,目では自分の興味あるものを捜している。そこで,それを取り上げて,治療者が一人遊びのように遊んでみたり,子供の足元にボールをころがしてみたりする。手を出してさわったり,すっとボールを追いかけるようになる等,自然にカラがとれて動きの伴う遊びが生まれ,不安水準の低下をもたらす等がある。
・ 冒険の喜びを与える。自分でやりたいという気持ちがだんだんと強くなってきて興味や関心をもつようになってくる。「これなに」「どうしてやるの」等の質問も多くなって,知的好奇心が育っていく。 E 水遊び
水遊びの効果としては,感覚的快感を与えることと,簡単な攻撃的行動のはけ口となることである。しかし,設備や温度等の条件がある。
F 粘土遊び
他の遊びと似て,子供が自分の手で自分の世界を創造する喜びを体験できること,攻撃欲求を表現できることで効果がある。 3)箱庭療法
箱庭療法は,きめられた大きさと広さの砂箱で子供が自由に自分の世界を創造する。小型の玩具類を並べた場所で,子供に「箱の中に何かを並べてみないか」と誘い,その子供が砂箱に興味を抱けば,思いのままに自分の内的世界を砂の上に表現していく。「何ができたか」を一応たずねるが,それを造りあげる過程や出来上がった作品を,また,そのつぎに造られる作品をシリーズとして見て,共通して使われている玩具やテーマなどの,「象徴的意味(シンボル)」を追うと,子供の症状や学習意欲を失って苦悩している心の問題,それに対する子供の心の構えや動いてゆく方向,治療者や親との関係などが浮かび上がり,しかもそれを「視覚的」にとらえられる。だからそれを見守ることで,子供も治療者も言葉の解説なしに,その子の心の深みにある問題について,共通の「象徴体験」を共にすることになり,心の触れあいを感じあえる。また,その作品から,治療のなりゆき,子供の行動の予測も可能であり,しかも遊びそのものが,子供にとっても治療者にとっても興味深く楽しい点である。この技法は知らず知らずに心を揺さぶり,心の触れあいによる「人間関係」を基盤として問題を浮き上がらせるのみならず,心底に眠る新しい何かをひき出し統合して,心理的な成長を促す作用をもっている。
次に,箱庭療法を創案したドラ・M・カルフ女史の治療理論を簡単に記す。カルフは,ユング心理学の自己(Selbst)の概念を中核とする人格の発達段階と,箱庭の情景の中に示される子供の心の象徴的表現を対応させて理論化した。すなわち,治療においては,
・ 「母子一体」の再現を治療の第一目標とする,治療状況で,子供が退行するのを受けと