研究紀要第53号 「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ 第1年次」 -039/042page

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め,治療者との間に「母子一体」の段階を再現する。この時「円」の象徴が出現する。母子一体再現で子供は「自己内休息」を生じ,人格再発展への自己治癒の力を内包する。

「保護され,かつ,自由である空間を保証し,母の自己から子の自己の離脱と自由な振舞いへの動きを促す。つまり,自由に動くことを許されると,葛藤,問題,欲求,不安,攻撃,破壊などを,玩具によって,あるいは砂の形によって思いのままに表現するようになる。

「転回点」(対決点)における治療者の制限的介入。自由な動きを許しつつ,ある時点にたち到ると,治療者は子供に,現実の限界を悟らせ,内外の刺激に対する反応の制御の必要性や仕方に気付かせ,エスカレートする破壌的な動きから,エネルギーを建設的な意味のある動きにと,流れの方向転換を図らねばならない時がくる。

安定した自已の顕われの象徴,マンダラの出現によって治療的基盤形成が終了する。

その後,自我の再構成,人格の再分化,外界へのかかわり方の変化など,治療の建設的仕上げの段階が続き,現実の諸要請に対する適切な反応力や,妨げに対する抵抗力を引き出すことになる。

6 第一年次のまとめと第二年次への課題

学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチと題して,二年間の継続研究を開始した。

本年は,その理論研究と学習意欲の低い児童生徒をとらえるため,学習意欲検査を実施し考察を加えながら問題をさぐり,明,二年次は抽出した児童生徒への実践的指導の研究をし,検証することを目ざした研究である。

本年の研究で大きなウエイトをしめる,児童生徒の学習意欲の評価については,東京学芸大学の下山剛教授の特別のご配慮により,同教授を中心とするグループ(下山グループ仮称)の長年の研究により開発された,「学習意欲検査」の利用をご決諾いただいた。

本検査は,本文中にも述べられているとおり,学習意欲だけを独立に,8因子の側面(内5因子は学習意欲にポジティブにはたらく因子P,3因子は,学習意欲にネガティブにはたらく因子N)のトータル得点Tによって評価しようとするもので,極めてユニークであると同時に,現在まだ公にされていないものである。

したがって,本研究においては,学習意欲をとらえる因子として下山グループの研究をもとに,次の8因子に限定することにした。
 [1] 自主的学習態度
 [2] 達成志向の態度
 [3] 責任感
 [4] 従順性
 [5] 自己評価
 [6] 失敗回避傾向
 [7] 反持続性
 [8] 反(学習)価値観

そして,これらの8因子を高めていくための動機づけや,指導(治療)にあたって,学校現場で用いることが有効と考えられる心理療法をどのように位置づけていくかを明確にした。

また,児童生徒一人一人の学習意欲の実態を的確に把握するために,どのような観点から,観察や面接を行うべきかなどについても明らかにしたものである。

なお,この研究を進めるにあたって,県北地区の小・中学校(福島市立鎌田小学校・福島市立福島第三中学校)のご協力をいただき学習意欲検査を実施し,因子別の問題やP・N・T得点などから個々の児童生徒の実態をとらえてみた。

二年次の明年度には,本年度の理論研究を柱に,

(1) 学習意欲検査のトータル得点の低い児童生徒の指導をどうするか。
(2) 学習意欲検査の各因子のばらつきの大きい児童生徒の指導をどうするか。
(3) 学習意欲と知能偏差値の相関の低い児童生徒の指導をどうするか。


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