研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -013/044page
を経験させる。(カウンセリング的アプローチ)
4.治療の実践
(1) カウンセリング的アプローチ
○本人の学習の仕方の問題点や家庭学習で困っていることなどを話し合い,みんなと協力して行う学習の中で,自分の考えを少しでも発表してみることを約東した。<9・27>○分数の通分について,7〜8分担任からの個別指導を受け,ようやく理解でき褒められてうれしそうだった。<9・28>
○学習発表会の照明係,あきないで喜んでやっていたと,係の教師から褒められた。<11・4>
○以前より意欲的に学習するようになったと母親から電話があった。<11・10>
○理科の時間にプリズムを持ち出し,教科担任から注意を受ける。自分の行動について反省を促すと,勘ったと素直に詫びる。<11・11>
○休日の過ごし方で,指導を守らず友人と仙台に行った。親の許しをもらったと嘘を言って出かけている。自分の行動を考えさせたが誤りに気付いたようである。<11・24>
○階段の掃除,同じ仕事を飽きずに続けている,以前より自分の持ち場を離れないで出来るようになったことを褒める。<12・2>
○仲良しグループが乱暴な遊びをしていても,「ぼくは悪いことだと思うから入らない。」とはっきり言えるようになってきている。<12・5>
(2) 行動療法的アプローチ
○「卒業までの目あて・の作文の中で,今後の努力点として,着替え,忘れ物,短気,むだ遣いをあげたので努力を続けるようにはげました。<11・1>○自分から進んで問題解決に取り組めるように課題の与え方を工夫してみる。そのためか,注意の持続・解決時間の延長が認められてきている。<11・21>
○家庭における学習は,復習を中心に基礎的な課題を与えて継続している。成功の喜びがわかりかけてきた。<11・29>
5.考察
学習意欲検査から見ると,従順性の因子以外はすべて前回より向上している,家庭での学習などは人に言われなくともするようになり,本人の意欲が前向きになってきている。教師が実施した他者評価でも,T得点は向上しており,特に,他からの働きかけに対して積極的に受け入れようとする様子が認められるようになってきている。
YG性格検査では,AB型からB型に変容し,物事をじっくり考えようとする面が大きく向上している。また,行動も活発になり,自分の考えをはっきり話し,相手の話を注意して聞けるようになってきている。しかし,周囲を非常に気にし悲観的に自分を考えてしまうところも見られる。両親の養育について見ると,両親とも子供の行動について口うるさく干渉しなくなってきている。特に,父親は子供をよく理解し能力以上の期待をかけた調子の強いはげましも少なくなり,両親が一貫した考え方で子供に接することが多くなってきているので,子供は不必要な気くばりや不安感情をいだくことが少なくなっている。
担任は児童の性格をよく把握しており,学習面で見ると,グループ学習では本人の考えをノートさせ確認してから発表させたり,机間巡視をして本人の考えのゆきずまりに対して的確な助言を与えるなど,機会を意図的に作り自信を持たせるような配慮をかさねている。以上の結果をまとめると,学習意欲検査からとらえられる限りにおいては本人の意欲の向上は認められる。これは担任が意図的に承認を与える場と機会を設定して指導をかさねた結果であると思われる。更に,本人が自力で問題解決を試みたり,最後までやり遂げようと努力する気持ちに高まってきたことも,担任や両親の励ましが本人のやる気を引きだしたものと思われる。しかし,行動面ではまだ改善されない点が残されており,今後両親・本人とよく話し合い継続した指導の中で望ましい方向を見つけていく必要がある。