研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -017/044page
ついてどういうふうにしたらいいか話し合う。
○10月3日 アイチックがやや感じとれる。
教師の発言にもあまり集中していない。母親は,アイチックについてはあまり意識していなかったとのことである。(2) 行動療法的アプローチ
○10月3日 宿泊訓練・予備訓練でのカウンセリングを通して,集団活動の中での役割,係としての責任ある行動などについての行動目標に基づいた実行カ認められ(スコアオリエンテーリングでリーダーシップを発揮して班を優勝に導いた)て,教師,級友からも賞賛を受ける。○10月18日 社会科の授業,VTRを使って授業を進めた。本人の発言が夢く,かなり学級の雰囲気を高めてくれた。終わって賞詞をおくると素直に喜んでいた。
(3) ロール・プレイング
○10月14日 資料室の大掃除で,3人各々役割を交代しておこなった。
C 「児童会の選挙で,逃げ腰になっていたから会長に落選したんだぞ」
C 1 「アーアそんなことねえな」
C 2 「あの時は,勝ったと思っていたんだけどなあ」
C 「いや,あんなもんだ」
C 1 「まあいいさ,こんどは学級委員に選ばれたんだから」
T 「学級委員だって大変だぞ」
C 「やるってば,ちゃんとやっから」○11月10日 諸行事が終わり,集中して授業をすることができるようになった。1時間に1回は指名するということになっているので,本人はどんどん指名されるため,いつ指名されるかということを意識するようになり,授業中の集中する態度がかなりひきしまったものになってきた,授業中は,よそ見をするようなこともなくなり,本気でくいついてきている。休み時間になって役割を交代しておこなった。
T 「なんで,あんなむずかしいものを指したんですか」
C 「そんなにむずかしかったかな」
T 「先生,わざわざ指したんだっぱい」
C 「そんな意地悪はしないぞ」
T 「うそだ」
C 「おまえには,ほんとうはできないことだったかな」
T 「うん できるよ」
5.考察
学習意欲検査からみれば,因子間のばらつきが大きい児童であったが,その変化は,3のアプローチにより,因子間の差が縮まってきて安定し,全体的にも意欲の高まりがみられる。
特に,自主的学習態度,達成志向の態度,責任感,従順性,持続性の各因子が高くなり,高位に安定してきた。
さらに,教師の本人へのかかわり方により,信頼感が増し,教師の各種アプローチを素直に受けいれるようになってきている。
また,教師の本人への理解,評価の差の要因について明確にしていったことにより,教師のプロフィールと本人のプロフィールの差もかなり接近するようになってきている。
今後の心理的治療によっては,さらに接近し,より客観化されることによって,教師の本人への理解が深められるであろうし,本人の自己理解もより深められていくものと思われる。
ただし,実際場面では,苦手な教科に対してはじっくり考えるということではなく,その場を繕うというような態度がまだみられるように,苦手な教科や苦手な学習内容など(例えば,読書感想文)によっては,学習意欲にムラがあることは,今後の治療の課題である。
この実践へかかわってきて以後,両親が,本人の家庭学習について,自主性が出てきたこと,積極性がみられるようになってきたことや計画性がみられるようになってきたなど,家庭において,本人の学習意欲が向上している変容の姿を認めている(家庭調査による)ことは,今後,本人へのプラスの作用となるであろう。