研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -018/044page
事例4 小学6年D児(女手)
1.学習意欲検査からみた児童像
(1) 児童の自己評価によると,平均すれば普通の学習意欲を持っているといえるが,ばらつきが大きい。勉強の必要性を理解しており,自主的学習態度もある。しかし,勉強にあきやすく,とりかかりが遅い。
(2) 教師の評価によれば,学習意欲は高く,全体的にバランスがとれている。
2.学習意欲の背景
(1) 知能・学業・身体
教研式知能検査SS58
学業成績は4段階 (国語,算数は5段階)
夜尿症(2) 性格検査(YG) C型
非活動,内向性である。特徴としては,やや劣等感を持ち,常に周囲のことを気にする傾向があり,社会的不適応の面がみられる。また,自分の考えを示すことが少ない。(3) 親子関係診断検査など
両親の養育態度が不一致であり,子供に対し関心が低い。(4) 担任の所見
しっかりした生活態度であり,級友からの信頼はあるが,目立つことを嫌う。
3.心理的治療の仮説と方法
学習に対する根気強さと,すぐに学習にとりかかれる気持ちを育てたい。それには,生活全体に自信を持たせ,活動性を高めることが必要である。
(1) 非常におとなしく,自分から教師に話しかけることはない。話しかけられても恥ずかしがり,自信を持って返答できない。そのため,会話の機会を多く持ち緊張感を解く。さらに,会話を通して,自分自身を見つめさせる。 (カウンセリング的アプローチ,行動療法的アプローチ)
(2) 知的な面が高いため,読書(伝記)により,様々な人生があることをさとらせ,さらに将来の目標を持たせる。(読書療法)
(3) 何事につけても消極的であるため自己表現の機会を与え,自信を持たせる。(行動療法的アプローチ)
(4) 夜尿症のため,生活全体に自信がないとも考えられるので両親に対して,夜尿症の治療を積極的に勧める。また,一致した態度で子供に接することと,子供との話し合いを多く持つよう働きかける。
4.治療の実践
(1) カウンセリング的アプローチ
○自分から自分に出す形式の手紙の中で,自信がある生活をしたいと述べている。
○「草」という題の詩で,草は仲間はずれにされている。もっと,きれいな花に生まれ変わりたいと記している。
○下学年の人に好かれる人になって卒業したいと話している。