研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -021/044page

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はできるだけ多くの機会に承認を与えるようにする。(カウンセリング的アプローチ)


4.治療の実践

(1) カウンセリング的アプローチ
○本人の学習について話し合い,学習の仕方を身につけたり,問題解決の中でできるだけ自分の考えを発表したりして,もっと自分の意志をはっきりいえるようにがんばってみる,と答えている。<9・8>

○分数の通分・約分がよく分からないのに,分からないと言えないでいる。<9・28>

○宿泊訓練での野外炊飯の時「ぼく,これやっから」とか,荷物運びの際「重たくて嫌だ」とか自分の考えを述べる。<10・1〜3>

○題意がとらえられず,解決の仕方がわからないといえないでいる。<10・19>

○割合の計算,理解は不十分でもやる気は見られる。<11・2>

○「卒業までのめあて」の作文をもとに話し合い,・授業中によく話しを聞く,・家庭学習はきちんとやる,・落ち着いて行動する。の目あてに具体的にどのように取り組むのか考える。<11・10>

(2) 行動療法的アプローチ
○家庭学習に計画的に取り組むように話し,漢字の練習を継続するようにはげます。<9・9>

○家庭学習を自分の力でやれるようになってきている。漢字の練習と併行して計算ドリルも計画的に実施するように話す。<10・24>

(3) 両親への働きかけ
○病気の祖母にやさしいことを母親から聞く,敬老の日の事前指導で学級で紹介する,はずかしそうだがうれしい表情を見せる。<9・24>

○時間がかかっても,自分の力で解決させることの大切さを話す。<11・12>

○中学校に入ったら学習が難しくなるので,ついていけないのではないか,と母親は心配で子供に学習を強いている。そういう母親の態度は子供の不安を高めるだけであることを話す。<11・24>

○父親の手伝いをしながら,いろいろと話し合える日だとうれしい表情を示す。教師と二人っきりで仕事をしたことなど初めての経験だろう。<11・26>


5.考察

 学習意欲検査から見ると全体的にきびしい自己評価をし,積極的側面に対して特にきびしく判断している。他者評価では積極的側面での向上を認めており,特に,自主的学習態度が前回の時より向上してきていると受けとめている。
 性格検査ではD型からC型へ変容し,下位因子では劣等感をあまり感じないようになってきている。しかし,人前で話したり自信のある行動がとれないなど,また活気の乏しいところが残っている。
 親の養育態度について見ると,父親は子供の心を理解しようと努カし,子供とのふれあいの場を多くすることにつとめ,母親は子供の話相手になるようにこ心がけ,子供をより正しく理解しようとしている。夫婦間の養育についての考え方も一致してきている。
 担任は本人の学習への取り組み方が,真剣になってきたと受けとめているが,全体的には積極性と確実さの点でものたりなさを感じている。

 以上の結果から考えると,学習意欲に対する本人の自覚が高まり,きびしく自己評価していると受けとられる。
 研究実践を通してみるとカウンセリング的アプローチは自信のない児童生徒にとって,具体的な行動の目標をとらえることができるので効果的であり,行動療法的アプローチは自分が行った結果について,担任や親からの承認が得られる機会として,また,本人の能力に応じた段階的な目標へのせまり方ができるため,意欲を高めるのに効果がみられた。更に,両親の子供をよく理解しようとする接し方は,今後,この子供の成長にとって自信を与えるものとして働き,学習や行動面ですぐれた結果を生みだすものと思われる。


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