研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -022/044page
事例6 小学6年F児 (男子)
1.学習意欲検査からみた児童像
(1) 本人の評価では,自主的学習態度があり,従順性があると評価しており,素直さがみられる。反(学習)価値観も高くみている。責任感,自己評価は低くみている。
(2) 教師の評価では,本人のプロフィールと相似しているが,教師のプロフィールの方が,本人のプロフィールより全体に低く,本人のように突出した因子もみられない。素直さがあるようにはみていない。
2.学習意欲の背景
(1) 知能・学業
教研式知能検査SS38.IQ81 (4年時)(2) 性格検査 (YG) D型
情緒は安定しており,活動的である。思考的活動はやや苦手であるが,協調的である。(3) 不安傾向診断検査 (GAT)
学習不安傾向,自罰傾向,衝動傾向がある。(4) 親子関係診断検査など
父親は,子供を期待通りに育てようとしながら,心配や不安を抱き,過度の援助や保護を与えがちで,感情的に対応しがちである。母親は,自分の要求を過度に押しつけがちで,子供を無視したり,放任しがちである。(5) 担任の所見
意欲に波があり,お天気屋である。個別に出す宿題はよくやるが未提出の時もある。努力はしているが効果はあまりあがっていない。
3.心理的治療の仮説と方法
教師の指示にも素直に従う従順性を基盤に,自主的学習態度,達成志向の態度,持続性を高めれば学習意欲は高められる。それに伴い,責任感,自己評価も高めることができる。
(1) 教師と本人との信頼関係をさらに深める。
(カウンセリング的アプローチ)(2) 特に,算数科を中心にして,達成目標を本人の力に合ったものとし,成就感,達成した喜びを味わわせることによって学習意欲を高める。(行動療法的アプローチ)
(3) 学習場面全体の中で,本人の意欲を高める賞詞を一日に一度は与え,がんばった姿を認めてやる。(行動療法的アプローチ)
(4) 学習意欲検査にっいての本人の評価と教師の評価との差について,その要因を明確にし本人の自己理解を深める。(カウンセリング的アプローチ,ロール・プレイング)
(5) 両親へは,本人の適性・能力・希望に合った養育ができるようにアプローチする。(カウンセリング的アプローチ)
4.治療の実践
(1) カウンセリング的アプローチ
○ 5年生の後半から6年生にかけて,教師が本人と接触してきたため親密感が出てきた。しかし,時々嘘をつくことがあったので,その都度カウンセリングをしてきた。最近は嘘もなくなり,親密感が増してきた。