研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -023/044page

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○11月9日 昼食時,「自分はきょうはこれを覚えるんだ。どんなに苦しくとも授業のめあてについていくぞという気迫がほしい。目当てもなしに教科書を出しても,やろうとする意欲がなければなんにもならない。」
 「自分が嫌いだ,嫌いだと思い続けていたら本当に嫌いになるから,嫌いだったら好きになるように努力しなければならない。」と,言葉が多少厳しくなったが,甘えが先行しがちになっていた時期だったので話し合う。

○11月11日 休み時間,算数の授業に挙手の回数も多くなっていたが,その理由は,教科書に準じた参考書を買ってもらっていたことがわかった。このことについて「使い方をまちがうとかえってマイナスになってしまうこと,自分で考えながら使うことが大切である。」ということを話し合う。

(2) 行動療法的アプローチ
○9月21日 校内陸上競技大会,個人走100メートルで優勝。400メートルリレーのアンカーで,ゴール前,後位から追いあげ大接戦を演じた。そこに至るまでの目標達成への練習と努力に賞詞を与える。級友からも賞賛を受ける。

○10月1日 宿泊訓練。事前に訓練中は教師との親密感を増すことを目標にしていた。2日目の朝食の時,「先生,うちの班に来て食べよう。。とさそってくれた。昼食事には,川の流れに冷やしておいたミカンを持って来てくれるように頼むと,心よく応じてくれた。お礼にミカンを半分にして分けて食べると,とても喜んだ。級友はうらやましがった。星を見る会では,「こんなに遅く外に出るのは,はじめてだよ。」といって近寄ってきた。

(3) ロール・プレイング
○1O月19日 算数(比例・反比例)の授業後役割を交代しておこなった。

F 「きょうの授業どうだった。」
T 「きょうの算数,なんだかわかったんだ。」
F 「それじゃ今まではわかんなかったのか。」
T 「私が嫌いだということを知ってっぱい。」
1 「馬鹿だな,おめんとこは特別やさしかったんだぞ。」
T 「きょうは特別じゃなく,わかったの。」

○10月25日 学習発表会でのホルンの練習
F 「そんなでかいカタツムリのおばけみたいなもの,おまえ音が出せるのか?」
T 「馬鹿にしてんだから。やってみるよ。
   ―低音のきれいな音で演奏する―
F「うまいな,いつこんなに練習してたの。


5.考察

 自己評価と教師評価との差にっいて,第2次検査を見ても,かなり自分を過大評価をしていると教師は見ている。教師は,なぜこうなっているのか理解に苦しむといっている。
 しかし,教師は,例えば宿題をやってきたとしても,その内容については評価の対象とはされていないために,本人としては宿題をやってきたという事実をもって,なんのためらいもなく高い評価をしたのではないだろうかとみている。
 さらに,授業の中では,指名されて答えることができると,「きょうは良くがんばったね。という賞詞の会話が日常的に行われている。そのため教師に認められている。目をかけられているという意識が強くはたらいて,本人の自己評価がますます高くなったのではないかとみている。
 第2次の検査では,本人のプロフィールと教師のプロフィールとがほぼ相似しているが,第1次検査よりも,両者とも高くなっている。
 これは,教師と本人との信頼関係がつくられ,さらに深められているためである。特に,教師が本人を良く理解しようと努めたことと,本人の従順性がかみ合い,各種アプローチを通して意欲の喚起をうながしたためである。
 また,第1次検査から教師と本人の評価の差について,要因が明確にされ,それに基づいて計画的,意図的に治療されたことが,本人の意欲の向上につながったといえる。
 家庭でも,家庭学習の計画性,向上心がみられるようになってきたと変容を認めている。


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