研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -025/044page

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ので,授業態度について聞くと,「わからないから。と投げやりな返事をする。

○遅刻が多く,朝自習もしないので理由を聞くと,「別に」という。

○将来については,「進学できなかったら自営業を継ぐ」と努力せず逃げ道を考えている。安易な生き方を求める傾向が強い。

○掃除を怠けた。「なぜ,怠けてしまったの」と問うと,「一緒に,つい」という。

○職業適性検査の受検をすすめたが申し込まず検査当日「友の言に誘われて」希望してくる。

○放課後や夕食前の遊びについては,「最近,補習があり,時間がなくて遊べない」という。

○自分を生かす道についての会話で,「商業高校へ進学したい」と目標がはっきりしてきた。

○目標に向かって,折りにふれ励ますと,「ハイ」と元気よく返事をする。

○基礎学力がない上に幼稚で問題を含む遊びに注意が向き結果がよくない方向へ行っている。今後の学校生活について,どのように考えているかについては,「誘惑に負けない」と自制心が大切であることを自覚してきた。

○他の生徒に影響された行動はまだみられるが,級友から批判されるようなことがなくなった。また,校則違反が激減した。

(2) 行動療法的アプローチ
 基礎学力が極端に低いので,漢字の読み書きと簡単な式の計算に段階的に取りくませた。

○漢字の読み書きの練習を5校時始業前の自習時間を使って,継続的に取りくませる。字をていねいに書くようになったと賞揚した。量を1個ずつ増やしていった。

○やさしい課題が提示されると自らやりだす。しかし,次のステップヘの抵抗が大きい様子で授業中はまだ軌道に乗らない。

○朝自習のとき,「正負の数の計算のしかたを教えて」という。方法を教えたら数題続けてできた。その後,数学に関心を示し,特に,「計算が好き」という。

○やさしい分数の計算ができた。正負の数の計算とともに,基礎的な技能が向上した。

○現有学力別基礎コース(国数英)の学習のとき,一番先に挙手する。答えもあっている。複数の教師からほめられる。

(3) 読書療法
○一自分の生き方を見っめさせるために,童話「話売りの話。(PHPより)を与える。「観音様にお願いしたいことが山ほどある。らくしたいなあ。と感想を書く。自分でやらねばという希望をもった心境を示した。

(4) 運動による治療
○保健体育の授業で,練習や試合のルールを守って動けるようにするために教科担任に指導を依頼した。太っていて「運動は苦手」という。

○ソフトボールの試合中,守備で走って補球し,チームメートに拍手で認められた。

(5) 両親への働きかけ
○提出物や集金などを明日までに提出するよう一声かけて本人に確認を促す。

○まじめに家庭学習をするよう励ます。「テストのときだけでなく日ごろ言われなくても勉強するようになりました」と母親の喜びの言。


5.考察

 学習意欲検査では,自主的学習態度,達成志向の態度,従順性,学習価値観が評価を高くしている。これは,教師の助言に対する従順性の高まりが背景にあると考えられる。また,失敗回避傾向,持続性が低下しているのは,進学に対する意識が強くなったためと思われる。
 教師との感情の交流が深められたことが,生活態度の改善にも表れている。YG性格検査では,A型からE型に変容し,GATでは,衝動傾向が下がっている。このように,行動面に落ちつきがみられ,自分の意志をもち,自分をうまくコントロールできつつあると考えられる。
 ただ,精神的に未成熟であり,基礎学力も低く,家庭の養育態度にあまり変化がないため,今後とも,ねばり強く指導と援助を継続する必要があると思われる。


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