研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -026/044page
事例8 中学3年H生徒 (男子)
1.学習意欲検査からみた児童像
(1) 生徒の自己評価は,ほとんどの因子が低段階にありながら,失敗回避傾向が突出しているのが特徴である。学習の価値観,必要感を持たず,しかも自主的に学習計画をたて,それを達成しようとする意志が乏しい。
(2) 教師も,学習意欲全体を低く評価し,授業場面以外の係活動などに意欲をやや認めている。また,対教師の態度を問題にしている。
2.学習意欲の背景
(1) 知能・学業
教研式知能検査SS51。アンダーアチーバーであり,学業成績は最下位に近い。(2) 性格検査 (YG) D’型
情緒的安定のバランスがとれていない。思考的外向が強い。自分を深くみつめられない。(3) 問題性予測検査 (DAT)
家庭,学校,対人不適応が危険性大でありながら,自己不適応感を抱いていない。また,規範逸脱性が大で,反社会的問題傾向も強い。(4) 親子関係診断検査など
父母とも問題行動を指摘されたときだけきびしく干渉する。普段は拒否的態度である。(5) 担任の所見
授業中あきやすく,投げやりな態度を示す。学習用具などの忘れ物が多く,注意されると過度な弁解をしたり,反抗したりする。行動が粗野で協調性がないので,集団の中で認められていない。
3.心理的治療の仮説と方法
学習の意味,必要性を十分に理解させるとともに,学習意欲の積極的因子を高める。
(1) 日常生活の中で数多く話し合いの機会を持ち,心を開かせ,自己実現への意欲を高める。 (カウンセリング的アプローチ,ロール・プレイング,読書療法,箱庭療法)
(2) 教科の内容に応じた学習方法訓練を行い,学力に応じた学習課題に継続して取り組ませ,成功の喜びを体験させて目信を持たせる。 (カウンセリング的アプローチ)
(3) スポーツを通して,規則の大切さを理解させ,進んで守る態度を育てる。 (運動による治療)
(4) 進路の方向を確認させ,その実現のために望ましい生活習慣を身につけさせる。 (カウンセリング的アプローチ,行動療法的アプローチ)
(5) 両親に対し,子供の生活全般に関心を高め,一致した態度で養育するよう働きかける。
4.治療の実践
(1) カウンセリング的アプローチ
○教科担任からの,「真剣に集中して学習に取り組む態度がない。」に対して,「担任の先生には悪いと思う。後悔するが,授業中騒いだりするときはおもしろい。」○昼休み呼びとめたら,「何で俺だけ。」放課後には,「部活があるから。と逃げ出す。