研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -027/044page
○いろいろな問題行動を続いて起こす。昼休み,放課後,継続的にカウンセリング。
○兄のこと,部活のことなど問題行動以外の話題には素直に反応するようになる。
○進路について相談に来た。「工業関係に進みたい。機械が好き。」
○テレビ番組のことから,自分の部屋にテレビがあることを告白。カウンセリング後「勉強のためにまずい。」と,自ら撤去した。
○五教科の学習のしかたについて話し合った。
○生活時程表,テレビ番組視聴表を作成した。意欲的に規則正しい生活を送ろうとしている。
○新しいノートを3冊買う。今までしたことがなかった授業中のノートをとり始めた。
○理科の授業ではじめて自ら挙手して発表。
○3人の教科担任から,「まじめな授業態度がよい。」の評価を受けた。
○10月,模擬テストの得点がはじめて3桁台にのった。「うれしい」と笑顔。
○定期テストの順位が2桁台にのり,中位グループに近づいてきた。
(2) 行動療法的アプローチ
○生徒の存在感の承認のために,学級担任の授業において毎時必ず声をかけ続けた。○粗野で不適切なことばづかいを改善するために,それらのことばを見逃さず,正しい語法を繰り返し復唱させてきた。
(3) ロール・プレイング
教師とより望ましい人間関係をつくり,他の人のありようを理解させるために,担任と本人との日常のやりとり,授業場面での応答を文章化し,担任の役割を演じさせた。「先生は本当に僕のことを心配してくれているんだ。」と述懐。(4) 読書療法
規律や規則を守ることの関心を高めるために図書を紹介。「N君のいらだち」(PHP)の感想文。「いままでルールに違反したことはいっぱいある。裏切られた人は本当にかわいそうだ。ルールを守ることは大変むずかしい。しかしルールは守っていきたいと思う。」(5) 運動による治療
バドミントンの試合で,「in」,「out」の判定を任せた。自分に不利な場合でも次第に公平な判定を行うようになった。公正さがよい人間関係をつくるのに大切なことを認識した。(6) 箱庭療法 (県教育センターで)
生徒の心理の変容を投影的にとらえるために3回実施した。3度目終了後,「俺,もう悪いことやめた。」とつぶやいた。(7) 両親への働きかけ
○問題行動を起こす要因を説明し,それを解決する両親の養育態度について話し合った。○進路を選択する際には,父親のリーダーシップが何よりも重要であることを強調した。
5.考察
学校生活の中で数多くの話し合いと承認の機会をつくりよい感情交流が成立した。そのために多種類の心理療法の実践が可能になり,このことを通して,望ましい方向へ自己実現が展開した。
進路を選択する過程で,学習の意味や必要性を理解し継続的な学習への取り組みが見られた。その結果,学業成績が格段に向上した。
同時に生活習慣の改善もはかられた。YG性格検査ではD型に移行し,情緒の安定が著しくなった。また,DATでも危険性大であった適応傾向,規範逸脱傾向が危険性小に変容した。これらにはカウンセリング,行動療法とともに,読書療法,運動による治療,箱庭療法が非常に有効であった。その結果として,生徒の学習意欲検査はP,N,Tの3得点とも上昇し,しかも各因子がほぼ平均化されたと考えられる。しかしながら,教師の評価は前回より上昇しているものの生徒より低い段階にある。他の生徒との比較やまだ努力が不十分であると考えているからであろう。
この生徒の問題点は従順性の低さである。進学に対する不安が強いためと思われる。教師の助力を素直に受け入れるパーソナリティ形成への援助が今後とも必要である。