研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -029/044page
4.治療の実践
(1) カウンセリング的アプローチ
○家庭学習の内容を聞くと「宿題を中心に大体毎日やる。2〜3時間くらい取りくんでいる」と小声で答える。能率がよくない様子である。○交友関係がせまい。「私はわがまま」な面があるという。協調性に欠け,つきあうことによって,お互いが高まっていくことができない様子がみられる。
○生活ノートを本人と教師の好ましいラポートづくりのための有効な対話の場にした。2年生のときから毎日書いてくる。「先生も書いてくれる。楽しい。最後まで書くつもり」という。
○私服で街に出かけたりして「前は,勉強しなかった」「今,ひびいている」という。これからどうしようかという会話の中で,「勉強してもよくわからなかった」「できるようになりたい」と,学力を回復したい意志を示す。
○生徒会の専門委員として,実に真剣に活動している。学級担任は,機会をとらえて「責任をもって活動していることがたいへん立派である」と高く賞賛した。
○家庭での話し合いから,進学志望校が具体化した。励ますと,「頑張ります」とはっきり応答した。
○5教科の学習のしかたについて話し合う。
○生活ノートの中に,「勉強が少しずつわかるようになってきた」と記す。意気ごみが感じられる。
○2学期の各教科所見に,教科担任から「学習態度がよくなってきている。根気強く努力してほしい」「製作に積極的に取りくんでいる」と評価を受けた。また,「関心・態度」の観点評価で3教科に初めて(+)がつく。
○校則違反がほとんどみられなくなる。安定した気持ちの生活態度である。
(2) 行動療法的アプローチ
「基礎をしっかり身につけたい」「勉強に自信がもてない」「勉強のきっかけをつかみたい」というので基礎的な学習課題を復習の形で課す。2数科(社会,数学の5分間ドリル)の添削をし必要に応じて説明を加える。できた喜びを味わわせ意欲を強化した。また,教科担任も,授業の中で学カに応じた学習場面で意図的に指名するようにした。
(3) 読書療法
学習への興味を喚起し,自主性をもたせるために読書を勧めた。感想文「死んだ少女に」野呂邦暢著「友だちに悩みを相談するが,言えないときは,家で一人で考えたりする。悩みを友だちに言っても理解してくれない。」「野菊の墓」伊藤左千夫著「人があれこれ言おうと悪いことをしているわけじゃないからお母さんや近所の人に言われても気にすることないのに」。(4) 両親への働きかけ
○家庭学習の効果を高めるために,両親のかかわり方をどうしたらよいか。○進路を決定するにあたって,自己実現を図る観点から親子で十分話し合うよう勧めた。
5.考察
学習意欲検査では,自主的学習態度,達成志向の態度が高まり学習意欲の積極的側面の因子が平均化した。また,失敗回避傾向,持続性が著しく高くなり,因子間の評価のばらつきが半減した。
このように,学習を追求する態度の改善がみられ学習への集中力や粘りが向上してきた。これは,学校生活の中で生活ノートや継続的な数多くの話し合いをもったことにより,本人と教師との感情交流が深められ,心を開いた会話が成立して生徒に指導が容易に受け入れられた結果と思われる。
また自他評価が近似し教師の生徒理解カ探まった。
YG性格検査では,A型からD’型(積極安定)に移行し,DATでは,感情的傾向,規範逸脱性が著しく低下してきている。
一方,依然として,学習への価値意識は低く,基礎学力の定着が不十分であるので,今後とも,相談的に,継続して指導と援助が必要である。また,自立心を育てるために親の養育態度の改善も課題といえよう。