研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -030/044page

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事例10 中学3年J生徒 (女子)

1.学習意欲検査からみた生徒像

学習意欲検査からみた生徒像

(1) 生徒は,学習の目的や価値を一応理解し,積極的に学習に取り組もうとしているが,意外に長続きしていない。また,教師の指導を適切に生かしていない。失敗回避傾向が高いのはテストの結果のみに執着することを示す。

(2) 教師は生徒より高く評価し,その差とばらつきを大きくしている。学習に積極的に取り組んでいると考えているものの,目的意識をもち継続して努力する態度を問題としている。

2.学習意欲の背景

(1) 知能・学業
 教研式知能検査SS50,学業成績は下位。
 教科による成績の差が大きい。

(2) 性格検査 (YG) AD型
 非協調的,支配性大,社会的外交大。かなり自己中心的である。感情のゆれも大きい。

(3) 問題傾向予測検査 (DAT)
 感情的で衝動的。気分が変わり易い。

(4) 親子関係診断検査など
 母親は一見教育熱心であるが拒否型である。父親は母親の養育態度を不安に感じている。

(5) 担任の所見
 テストの結果に執着する。日常の学習の積み重ねがなく,授業への集中力も乏しい。また,自己統制力が弱い。自己を必要以上によく見せようとする傾向を持つ。集団において協調性に欠ける言動が多い。


3.心理的治療の仮説と方法

 学習の目的と必要性を十分に理解させ,学習意欲の積極的因子を高める。

(1) 教科に応じた学習のしかたを工夫させ,計画的に学習に取り組ませる。 (カウンセリング的アプローチ,行動療法的アプローチ)

(2) 教師とさらによい人間関係をっくり上げることを通して,集団の中での自己のあり方を改善させる。 (カウンセリング的アプローチ,自律訓練法,ロール・プレイング,読書療法)

(3) 進路の選択などにあたり,家族がその役割に応じてよい援助者となるよう働きかける。


4.治療の実践

(1) カウンセリング的アプローチ
○「2年生のときに下降した成績を回復したいと考えている。」の発言があった。以後,短時間のカウンセリングを継続した。

○5教科の教科書を揃え,それをもとに学習計画をたて提出するよう求めたが「やりました」の返答のみで,実際には提出しなかった。

○「同じことを繰り返して勉強しません。」

○グループ活動で自分の考えに合わないことがあるとカーッとするようだがの質問に,「自分でも自分を押える力が弱いと思っています。」

○1学期末の定期テスト後,「思うように上がらないので少し気落ちしています。」

○「勉強の時間を増やしました。」というが,やっているふりのようである。


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