研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -031/044page
○「応用がきかなくて」と嘆く。誤りを追求することの重要さを,「フィード・バック」の語を例にして説明した。
○家庭のことで,「自分が気にしていることはありません。」進路などについて,父親に積極的に相談することを勧める。
○5教科の学習計画を提出してきた。日曜日は思い切って勉強を休むよう助言した。
○感情を押えるのが必要なことについて,「すぐカーツとするのは,私がわがままだからです。友だちの意見を素直に聞くよう努力します。」
○友人とのトラブルが少なくなってきた。
○父親について,「信頼しています。」
○模擬テストや定期テストの結果が着実に向上してきた。授業中落ち着きが出てきた。
○過日提出の学習計画を一通り終えたと報告してきた。ことばづかいがていねいになった。
○教科担任から,「授業態度がよく,集中力がついてきた。」とほめられた。
○友だちについて,「みんなそれぞれいいとこある。」と笑顔で表明。
(2) 行動療法的アプローチ
生徒との人間関係をより深めるために,「生活記録」でのふれあいを続けている。これには,毎日の生活状況,友人のこと,家庭学習のこと,読書などについての記入があり,それらの教師のことばを添えることによってさらに望ましい行動を促してきた。「信頼している」のことばを意識的に多く用いてきた。(3) 自律訓練法
「テストのときとても緊張します。カーッとなって落ち着けないままテストが終わってしまうときがあります。」と言うので,自律訓練法を動機づけた。○自律訓練法の背景公式と重感公式の練習
○自律訓練法の活用のしかたの説明
(4) ロール・プレイング
友人関係の改善のために,友人とのトラブル場面を取り上げ,教師と役割演技。(5)読書療法
学習への興味を喚起し,自信を持たせるために読書を奨励した。「私も自信のなさに脳んだ」(三枝三枝子著)の感想文。「悩み苦しんで来たことはたくさんある。しかし,それをのり越えれば,不思議と気が楽になる。どんなときでも自信を持つよう心がければ,不思議と力がわいてくる。」(6) 両親への働きかけ
○家族それぞれの役割について,母親,本人教師と三者で話し合った。○進路の決定には父親が指導力を発揮するよう強く要望した。
5.考察
この生徒の背景にあった諸問題は,教師との感情交流が深まるにつれて着実に改善されていった。
YG性格検査はAD型からD’型に移行し,情緒が安定,社会的適応も望ましい状況に変わった。DATでは感情の易変性,衝動性が危険性小の段階に変容した。
計画的に学習し,学習成績が向上し安定してきた。教科による成績のむらがなくなった。これらにより,学習意欲検査は因子間のばらつきがなくなり,P,N得点とも平均化され,学習意欲が格段に向上したと考えてよい。特に望ましいのは,学習の価値を正しく認識し,目的に向かって積極的に学習する意欲が高まったことである。
従って努力をしないでテストの結果にこだわることもなくなった。教師は,生徒の努力を十分に理解し,P得点では生徒とほとんど同じ評価を行った。しかしながら,失敗回避傾向と反(学習)価値観とを低く評価しているのは生徒が相変わらず進路やテストに対する不安を持っていると考えているからと思われる。
生徒の課題は,学習活動を阻害する条件を自覚し,それを克服することである。