研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -033/044page

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4.治療の実践

(1) カウンセリング的アプローチ
○「神経質だから」と,自分の判断で母親を伴って精神科医へ行った。

○立場上,大勢の前で話す機会が多い。感想を聞くと「とっさの場合の応用がきかない」「自殺も考えた」などとかなり落胆している。

○授業中,まじめに勉強しているが,めったに発言しない。「意見はもっている」という。

○生活ノートによれば,家庭学習が少なく,計画的学習の気配がない。

○授業や学級会で,ささいなことにこだわり納得しない。「考え方について行けない」「完全でない」という。

○自分に対しての要求水準が高く,それが達成できないと,自分への不満を強く抱く。「やっているように見られているが,実はデタラメなんだ」「自分はいやらしい」という。

○2学期の学級役員に選ばれた。イヤだとはいわないが本心はあまり気がすすまない様子。

○学級対抗合唱コンクールの練習の際,男子生徒が帰ってしまっても,周りの無言の圧力のせいか,だまってしまう。

○バウムテストの実施。強迫傾向,洞察カの不足,短気でかんしゃくもち,心理的外傷体験,不満や怒りの表出,自己と環境の関係に不調和感をもつことが投影されていた。いつ,どこで,だれに対して,どんなときにいらいらするのかなど,継続的にカウンセリングをする。

○「堅実的すぎて友だちが少ない」と相談に来る。敬遠されているわけでなく,実カと実績が高く評価されていると励ます。

○民間ラジオ放送「中学生は何を考えているか」に出席するメンバーに選出され,心よく引き受ける。

○授業中や朝・帰りの会などで,適切に「級友に注意する」ようになる。学級内における信頼とリーダー性がでてきた。

○「技術を身につけたい。という本人のかねてからの考えから,進路先を公立高に決定し,学習計画を作成した。

○学習計画にそって21時30分までには家庭学習を終了する。睡眠時間を8時間はとっている。

○神経質な点があまりみうけられなくなった。「そういった相談は,近ごろほとんど皆無といってよい」 (学級担任)

(2) 読書療法
 「善意の定期便」(榊二郎著)の感想文――「最近,善悪の価値判断が若い人の間に定着しておらず,善い事を行うのが気はずかしく勇気のいる世の中でこんなことができる青年がいるなんて・・・すごいなあと思った。」環境へ適応しようという積極的な意欲が感じられた。

(3) 両親への働きかけ
 生徒自身の考えを尊重しながら一つの話題についていくつかの視点から,家族で気軽に意見を交換する習慣をもつよう三者相談で要望した。


5.考察

 教師の観察や本人に対する心理検査からかなり神経症的な言動がみられた。そこで,学校生活の中で数多くの話し合いと承認の機会をつくり,感情交流を深めて,心を開いた会話を成立させた。
 YG性格検査では,E’型に移行し主観的因子が弱まって活動的因子が高くなり,2回目のバウムテストでは,外界と調和し環境に満足を得ていく能力があると自認して,適応していく積極的な意欲がうかがえる。学級においては,級友の信望を増し指導力を発揮している。また,母親は,子供を受容するかかわり方に変容している。
 その結果として,学習意欲検査では,全体として学習を追求する態度が著しく向上し,本人の評価と教師の評価が極めて接近してきている。
 一方,学習意欲検査では「自己評価」が最も低く,YG性格検査では,抑うつ・社会的内向の因子が高く,GATでは自罰傾向が強まっている。
 これは,進学に対する不安も背景にあると思われるが,今後とも,自律訓練法などの治療も加えて,不安の解消や積極的な学習態度の向上について,継続的に働きかける必要があると考えられる。


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