研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -035/044page

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でも追求して解決しようとする気持ちはない。

○友だちに何か言われても,「気にしない」

○進路は,「母親に公務員になることを勧められている。」

○国語,英語の学習のしかたについて教科担任の指導を受けた。

○スーパーマーケットで働く母に会った。翌日,「お母さん一生懸命働いていた。大変のようだったよ。」と伝えたところ,顔が引き締った。

○生徒会関係の役員に選ばれた。その役割に取り組む心構えなどについて考え方を吐露させた。今までになく積極的に活動し,級友から見直された。

○同一志望校の生徒のグループに入って活動できるよう配慮した。

○友人関係が広がり,友人同志で数学の問題を解いている姿が見られるようになった。

○将来の進路について話し合った。「僕は本当は何に向いているか。」

○授業中伸び伸びしてきた。仲間と本気で議論している。勉強の質問をするグループで活動。

○テストの成績が最上位に安定してきた。学習態度にひたむきさが出てきた。

(2) 行動療法的アプローチ
 責任感と自信を強めさせ,さらに学級内での信頼を得させるために,学級の数学係に任命。朝自習やテストの数学の問題の解説を継続しで行わせ,激励と賞揚を続けた。その結果,
・計画的に準備し,責任を持って任務を果たせるようになった。級友との対話が多くなった。
・質問を上手にさばき,自信を持ってきた。

(3) 読書療法
 受験勉強一辺倒の生活を切り替え,また,ものの見方や考え方を幅広くさせるために読書を勧めた。そして,感想文を書かせることによって,心の軌跡をたどれるようにした。「模型飛行機の飛ばし方。(東陽一著)の感想文。「これを読んでいると,自分の小学生のころ作ったのを思い出した。半日ほどで仮組み立てが終わり試験飛行と改良を何回もやった。」

(4) 両親への働きかけ
○進路について両親が一致した考えを持つよう強く働きかけた。

○生徒は自己主張や感情表現が非常に少ない。団らんの機会を多く持つように勧めた。


5.考察

 教師の個をみつめた適切な指導により,教師との人間関係がさらに深まり,心を開いて相談する機会が増え,学力も高い段階に安定した。
 いくつかの責任ある役割をこなしたことにより,級友の信頼が厚くなり,成功の喜びを感じ,大きな自信を得た。YG性格検査を比較すると。同じD型を示しながら,一層客観的になり,活動的で支配性,社会的外向が高まった。DATも危険性小の段階で平均化された。

 学習意欲検査のT得点,評価段階が生徒,教師とも全く同じ結果を示した。生徒の持つ学習意欲について適切な評価が下されたといってよい。
 生徒のプロフィールの特徴は,従順性を下げ自己評価を高く評価していることである。これは,テストに関して自分の目標とする結果が残せたのは自分の意志と責任で努力したためであると過剰な自信と思い込みにとらわれているからと考えられる。一方,母親の養育態度はほとんど変わらず,夫への不満を生徒への過期待の態度に表している。父親は母親のいいなりになり,本来の役割を果たしていない。生徒の学習への目的意識がほとんど変容しない要因の一つになっている。

 教師は,生徒の以上のような特性や背景をよく理解し,多くの場面で献身的な指導と配慮を加え,自己実現への援助に力を尽くしている。
 「自分は試験に縛りつけられている。」(本人の作文)状態から,新たな建設的な目標に立ち向かわせることが大きな課題である。


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