研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -004/049page

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の機関に特性があり,その特性に基づく方法等によって統計されているので,それぞれ異なる実態が示されている。しかしながら,これらの統計資料等は,各機関で実際に取り扱った顕在化した数と内容であるので,以上四つの資料を総合して県下の学校数,児童生徒数と照応させてみると,児童生徒の反社会的行動の実態は,家庭や学校のみならず社会全体のゆゆしい問題といわざるを得ない。適切な指導援助が期待されている。

 (4) 反社会的行動への心理的な指導援助

 児童生徒の反社会的行動を改善・解決し,児童生徒を社会に再適応させるためには,適切な教育的,心理的,あるいは医学等による指導援助が必要である。教育相談の役割は,反社会的行動をもつ児童生徒に心理的な指導援助をすることである。

 心理的な指導援助とは,児童生徒自身が,自己の問題や本来あるべき真の自己に気づき,自己治癒力によって自己変容していくことができるよう反社会的行動の背景や要因を的確に把握して,問題となる事柄の改善・解決のために適合する心理療法を用いた指導援助のことである。本研究においては,この一連の過程を「教育相談」と称した。

 ところで,当教育センター教育相談部では,日ごろ次のことを特に考慮し留意しながら反社会的行動をもつ児童生徒の教育相談を進めている。

 1 反社会的行動は,児童生徒の発達の過程の中で発生するので,いつの時期に何を問題にするかによっても,その行動のみかたが違ってくる。例えば,「いじめ」の問題を取り上げてみると,いじめの行為は明らかな反社会的行動であるが,以前にその児童生徒がいじめられて不登校に陥ったことがあるとすれば,その時の行為は非社会的行動である。一方,不登校の児童生徒がよく行う部屋への閉じこもりは非社会的行動であるが,登校刺激等に対する反抗や暴力行為は反社会的行動である。

  一人の児童生徒の問題行動には,反社会的行動と非社会的行動とが包括されている場合が多いのである。したがって,教育相談においては,児童生徒の発達の様相や背景等を十分に見極め,いくつかの広い視点のもとに問題の改善・解決を図っていくようにする。

 2 反社会的行動は,児童生徒のパーソナリティの問題とともに,児童生徒が所属している集団との関係の中でとらえる必要がある。すなわち,児童生徒の年齢,性,家庭や学校生活の経歴,社会の規範や慣行への認識と態度,反社会的行動の体験度と内容などとともに,所属集団の種類,その集団内での位置,所属期間,そして親及び教師への接近度等に十分に注意を向けることである。実際の教育相談においては,反社会的行動をもつ児童生徒個人への指導援助と同時に,関係者が連携して,仲間集団や親へも的確に指導援助する。

 3 反社会的行動は,児童生徒が家庭,学校,社会の倫理やそれらの体制のもつ価値に反するかたちで顕現する。これは,その児童生徒をとりまく人々との人間関係のひずみや疎外等が要因となり,家庭,学校,社会へ不適応感を抱くことにより発生する場合が多いようである。これらの価値感や人間関係をよく吟味してみると,時代の流れ,社会の風潮や流行,おかれている環境の相違等によって,かなり変動するようである。いくつかの例をあげて説明すれば,頭髪や服装の違反なるものは,それらの規則のないところでは無縁,無価値であり,暴力行為を繰り返す児童生徒が学級担任の交代によって,その行為を消失させることなどがそれである。

  教育相談にあたっては,児童生徒のおかれている環境の中の価値観や人間関係を十分理解し,時と場合に応じて必要な環境調整を行うようにする。

 以下は,当教育センター教育相談部において,実際に行っている教育相談の進め方の理論と教育相談の事例である。


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