研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -006/049page
ると考えることができる状態で,心身症や身体表現性障害(DSMー3)※の形をとることが多いと考えられる。すなわち,過敏性大腸症候群や緊張性頭痛,転換型ヒステリーなどがその例である。
2 行動化の方向
これは病的不安を行動に置き換えているものであるが,反社会的行動に置き換えるか,非社会的行動に置き換えるかは,児童生徒の性格(特に積極性など)や自我の監視役としての超自我の発達(特に倫理観,規範性など),その時置かれていた周囲の状況などと深くかかわっているということができる。
反社会的行動を起こす児童生徒の多くが,積極的な性格を持ち,倫理観や規範性の発達に問題を持つことが多いが,反社会的であった行動が突然非社会的な行動に変化したり,またその反対の変化を見せることもあり,そこに行動化の複雑さが存在するといえる。
3 体験化の方向
体験化の大部分が,身体化や行動化に失敗した場合に起こるものと考えられ,うつ病や神経症の病態をとる場合が多いようである。
従って不安の防衛の様式をまとめると次の様になると考えられる。
※ DSMー3Diagnostic and StatisticaI Manua1 ofMenta1 Disorders, Third Edition(「精神障害の分類と診断の手引」)
4 反社会的行動の背景
(1) 反社会的行動の背景を知る意義と視点
反社会的行動をもつ児童生徒の教育相談に当たっては,「発達期には,特有の行動様式や精神活動がある」という認識のもとに,その行為や行動を生じさせた背景を的確に把握し,正しく理解することが何よりも大切である。それは,「その行為や行動が何であるか」を知り,問題の本質を正しく把握して,新たな適応の方向を見いだすことによって,教育相談の具体的な方法や対策等を決定し,あるいは採用することができるようにすることである。これらのことは,身体の問題などの,より基底的な問題から順に,その要因を見極めていくことによって可能になるものと考えられている。
それには,その行為や行動が,いつ,いかなる場面で,どのような条件や状況のもとに生じ,どのような経過実存的次元をたどってきたかを客観的に知る必要がある。
そして,人間は,「生物的次元である脳機能を基盤生物的次元として,心理的,社会的,実存的な次元が重層した総合体である」(大月三郎「精神医学」文光堂)と考えられることから,児童生徒個々の
1 遺伝的負因や身体的要因,病気などの生物的次元
2 知能の程度,行動の特性,パーソナリティ形成の過程や因果関係などの心理的次元
3 養育者や教育者,友達との関係,あるいは家庭環境,学校環境及び社会環境との関連などの社会的次元