研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -023/049page
「私も,ついカッとなってたたいたりしてしまうことがあるんですが,そんな時は,心が安定していないからだと思うんです。子供たちもつらいですよね。」
「妻も,私が支えてやっていないから,積り積ってイライラするんじゃないかと思うんです。」
と,言えるようになってきている。
(4) 親子関係の調和を図る
● 両親と本人との約束を守る
小遣いの与え方や帰宅時刻を守ることを中心に,親子との問につくった約束を守るようにする。約束が守れたら,ほめる言葉を与え,励ましてやる。
このことについては,どちらかといえば親の方に約束不履行が多く,逆に本人が破った時には,親の方が一方的に責めたり,報償を取り消したり,体罰を加えるなどの行為が見られた。そのため,かえって本人の反発的行為を誘発してしまうことがあり両親への不信感をつのらせていた。
● 何でも病気と結びつけて考えない
本人の行為を,食事制限からくる欲求不満を満たすために,親に隠れて食べたくて金を盗り,食べ物を買っているというように考えない。
「以前は,何枚かの札のうち一枚だけを取ってわからないようにしていたんですがこのごろは,取ったことがすぐわかるような取り方をするんです。やっぱり食べたい一心で盗るんですかね。」という考えから
「取る,おこる,取る,おこるとくり返してばかりいて,本人の気持ちをわかろうとしていないせいなんでしょうかね。」と母は考えるようになってきた。
● 運動療法
本人と遊ぶということがほとんどなかった母が,トランポリンを通して
「きょうは,運動着を持ってこなかったんです。」
「きょうは,すごく疲れました。」
「私も遊べるようになりました。」
「きょうは,一緒に汗をかきました。楽しかったですよ。」
と,声を出して笑えるようになってきた。
● 父と本人との接触
「私も忙しさにまぎれて,子供たちと遊ぶこともあまりしないし,家内にまかせっきりの状態でした。」
「そして,何かあると見さかいなくなぐったりしたのが悪いんだと思います。」父の努力で,子供たちと接する時間がとれるようになってきた。
8. 考察
本人は,病気を治そうと思っていても,親子関係の調和が思うように進展しなかったり,母の対応のまずさがあったりすると,情緒の不安定な状態を強いられ,次から次へと約束を破る行為をくり返し,金銭を盗むトラブルをおこしている。両親は,それらの行為を本人のせいだけに帰して,少しでも本人の気持ちを考えてやろうとか,わかってやろうという姿勢が足りなかった。
しかし,夫婦関係の調和・連合の指導援助の中で,父の行動に変化の兆しがみられ,それが母の行動にも影響し,今後の指導に明るい見通しとなってきている。
また,指導援助の中で,新たな資料の収集をしていたら,次のようなことがわかってきた。
それまでは,病気との関係で食べ物への欲求に耐えられず,病気への不安から隠れ食いや金を盗むなどの行為をしていたのではないかと仮定していた。しかし,生育歴の洗い直しで,発病以前の低学年のころから金を盗むことや嘘をつくことがあったことがわかった。改めて指導仮説の補強修正と指導方針の見直しをしなければならないと考えている。