研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -029/049page

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 1 本人

● 一人で来所。「昨夜無断外泊した。夜遊びに出て,そのまま家に帰らなかった。友だちのところで暇をつぶして,午後一人でここに来た。」

● 小さいときから何だか分らないが,いつもいらいらしていた。それがシンナーを吸うと,ゆったりした気持ちになる。

● 体育館でバドミントン。背後に飛んだシャトルを打とうとするとすぐ転ぶ。

 2 両親

● 本人が一人で来ていることを知って驚く。

● 両親のみた本人像

 父 「自己主張が強く,目立ちたがり屋。感情の起伏が激しい。長続きしない。」

 母 「がまん強くない。都合が悪いと逃げるのでずるい。好きなことだけをする。」

ーなぜ,無断外泊や家出をすると思うか。

● 父 「規範の押しつけー違反ー叱る,のパターンの繰り返しのせいだろう。」

  母 「父が甘いから。」

ー容易に説明のつかない行動が多い」ことを理由に,専門医の診察を受げることを勧めた。

 A精神科医の診断,「MBDである。当分の間,薬(薬品名,略)を服用させよう。」

 (4) 第4回面接ー父親との面接ー

● 父は仕事一筋であった。それが離婚の直接の要因になっている。離婚によって,父親が3人の子供を引き取った。「それは,前妻の子供への愛情のかけ方に強い不満を持っていたからである。しかし,再婚して,今の妻の養育態度も問題と思っている。実は,それで困っている。」

● 本人の生育歴について,「小さいときのことを覚えていないので,説明できない。」

5. 診断

 本人は,親から十分な愛情をかけられることがなく,あたたかなふん囲気の家庭生活をおくった体験をもたないまま成長してきている。また,幼少時から多動であり,説明のつかない行動が多かったため,それがMBDの特性であることが理解されず,絶えず叱責や批判が加えられてきた。その結果,本人は否定的な自己像を形成してきている。情緒不安定的で衝動的という性格特性をもつ。

 父親は,いわゆる有名大学出身であるためか本人の能力や適性を無視して,つねに「勉強しろ」の刺激を与え続けてきた。本人は,その期待に応えきれず,次第に家庭や学校に対する不適応感を強めてきた。

 本人の家出の行動は,父の再婚後まもなくから発生している。これは,夫婦のあり方や家族関係のひずみ,そして養母の養育態度に問題があるからと思われる。それでありながら,家族は思春期を迎えている本人に相変わらずのストレスを加え続け,家出の行動を繰り返させている。遂には同じような不適応感をもつ仲間と集団を形成し,様々な反社会的行動を引き起こすようになっている。

6. 指導仮説

 当面は,本人の主張や行動を受容して,継続して来所する意欲を高める。そして,次のような指導援助によって,本人の行動を改善させていく。

 (1) MBDによる二次的な注意集中障害,衝動抑制障害等を自己コントロールすることができるように,A医師の診察や指導及び薬の服用を続けさせる。

 (2) カウンセリングあるいは箱庭療法をとおして,自分で解決しなければならない問題,自分の内面や長所に気づかせ,新たな自己像を築かせていく。

 (3) ロール・プレイングと運動療法等により,社会のルールを守る意識や態度を育てる。

 (4) 進路について考えさせることによって,今自分がおかれている立場を理解させるとともに仲間集団とのあり方を改善させる。

 家庭に対して,家族療法を取り入れ,より機能的で充実した家族システムを構築できるようにす


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