研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -034/049page
「おもしろくない」心境にある女子生徒と出会い親しくなり,性行為をもったのは,お互いに自他一体感を求めてであった。
これらの背景は,
(1) 身体的発達が良好で,早熟であり性の目ざめが早かった。
(2) 祖父の発言力が大きく,祖父母が養育の中心となり,両親の役割が十分発揮できず習慣やしつけが十分できなかった。
(3) 存在感がうすく子供の養育に十分にかかわってこなかった父親によって,道徳性や衝動の抑制力が育っていないこと,その上あたたかい情愛を欠き,過干渉の母親の態度が,本人の攻撃性や衝動性を助長させてきた。
(4) 祖父の結婚歴や複雑な家族関係の中で,家族が一様に規範性や女性の尊厳,また女性像や性のモラルにひずみがある。
などが考えられる。
6. 指導仮説
まず,信頼関係をつくり,不純異性交遊をやめさせる指導を行い,次に,適切な技法を用いながら問題行動の背景にアプローチする。
(1) カウンセリングを通して,心を開かせ,社会の規範を守り,相手の人格を尊重しようとする意志を育てる。
(2) カウンセリングにより,自分の問題に気づかせ,自ら問題行動を改善しようとする意欲を高め,また,よりよく生きる目標を設定させ,仲間集団の在り方を具体的に改善させる。
(3) 両親に対して,養育態度を見直し,家族関係を改善して,父親のリーダーシップを発揮できるようにさせる。
(4) 学校との連携をとって,お互い一貫した指導援助ができるように協力し合う。
これらの指導援助をそれぞれの面接において具体化して自己洞察を深めれば,着実に問題行動を改善していくものと考える。
7. 指導援助の経過
(1) 感情交流と面接の目的
● 太めのズボン,ポタンダウンシャツのスタイルで来所。そう緊張している様子はない。部活動の話題を数分間展開。練習はきついがその活動はおもしろい・好きだなど落ちついた表情で話すようになる。構えのない会話が可能になる。
● 来所の動機と目的については,先生から,「心が悪いか,体が悪いか行ってみるか。」と勧められたが,「自分から来た。」,自分の問題は「女の問題」であると述べた。面接関係が成立し,今後,継続して来所したいと改善の意志を表明した。
(2) 不純異性交遊の指導
● 「女の問題」って,どんなことかな。
「A子と5月ころから,セックスしている。」しかし,親はそれを「知っていない」。
● A子って,どんな人かな。
「髪を染めたり,万引もした。家出もした。」A子の母から,「うちの子を頼む。」といわれたので,「つき合いを始めた。」
● A子に対するあなた自身の気持ちは?
「愛している。」,「子供ができたら生ませる。」
ーここで,性関係→妊娠については,性の役割,恋愛の意味や生まれてくる子供への責任にふれる必要があると判断する。
● 2人の性行為は,生殖という意味かな。
「YESか,NOか………わからない。」
ー連帯感でもあり,快楽でもあるようで迷っている様子である。
● 親って,何だろう。
● 親って,どんな仕事をするんだろう。
ー性行為における男女の生理的な相違を知らせ,性の役割にフィードバックすることにより,白分の意思と自分の行為の矛盾に気づかせた。今の段階では,A子の人格を真に認めていないとの認識のもとに性関係をもつことは,「中学生