研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -044/049page

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7. 考察

 (1) 事例の総括

 本研究には,小学校2(男女各1),中学校(男2,女1),高等学校(男女各1),計7つの教育相談の事例を提示した。事例の選択にあたっては,できるだけ反社会的行動の男女別,学校種別の特質や一般的傾向が理解できるよう配慮した。

 小学校の事例は,2例とも意図的に「盗み」を取り上げた。いずれも,生育した生活環境や親の教育程度などに相違があっても,養育のしかたや態度,愛情のかけ方等に問題があれば,同じような過程をふみながら盗みの行動に陥っていく事例である。児童生徒の問題行動は,まず初めは児童生徒自身の意識の外で,やむにやまれぬかたちで発現するのである。

 中学校の「集団いじめ」,「家出」,「不純異性交遊」の事例は,生徒の生活空間の中心領域が家庭から,同年齢の集団との接触が深まっていくなかで発生しているのが特徴である。これらは表面的には異なる行為や行動であるが,対象生徒がいずれも家庭や学校に不適応感をいだき,似たような境遇にある生徒同志で集団を形成し,その集団とともに種々の問題行動を弓1き起こしているのは同じである。集団が本来もつ望ましい社会化の機能を発揮できず,反社会性の傾向の強い逸脱集団を形成しているのである。

 「集団いじめ」は,いじめられがいじめに転化し,また女子特有の陰湿化したいじめの実態が明らかになっている事例である。「家出」と「不純異性交遊」とは,反社会的行動が初期にはまず1種類の行為を,次に多種類の行為を,そしてその後には同じことを常習的に繰り返したり,1種類の行為に執着するという典型を示す事例である。

 高等学校の事例は,「盗み」と「性的逸脱行動」である。前者は,一見粗暴で反社会性の強い行為を示しているが,実はいろいろな身体症状を示し,神経症を背景にもつ生徒の事例である。これは,家族システムのひずみから不適応な行動を始めた生徒に対して周囲の人々の無理解と思えるような人間関係のもち方が,次第にこの生徒の反社会的行動をエスカレートさせていっている。後者は,現在の家庭や学校において,本来こつこつと積み重ねて身につけてくる倫理観や社会化の育成を怠った結果としての反社会的行動である。

 これらはいずれも,自我同一性を確立しようとする時期に,それまでに必要な発達課題を十分に学習してこなかったこと,あるいは環境での阻害要件が多すぎることなどから・自らの生きる方途を求めて迷走している姿のようである。

 児童生徒の問題行動のすべてにいえることでもあるが,反社会的行動は,各事例の診断に示したように,単に一つの要因でなく誕生以来の生育過程の中で種々の要因が複雑にからみあって発生する。したがって具体的な指導援助にあたっては,問題行動の背景からその要因を的確に把握し,あたかもよじれた糸くずをほぐすかのように一つ一つ順序だてて改善・解決の道をたどっていく必要がある。反社会的行動の発生の要因が多元的である以上,それを改善・解決する指導援助もまた,論理性,科学性の根拠のある方法によって,多元的なアプローチが要求されるのである。

 各事例とも,反社会的行動の改善・解決のための指導援助のすべての経過を表現していない。それは,各事例のもつ特性に応じて,反社会的行動が次第に改善・解決していく過程の中で,その問題の改善・解決に最も適切で有効な心理療法とそのプロセスを焦点化したためである。

 (2) 教育相談の流れ

 当教育センター教育相談部で行っている教育相談の一連の流れをフローチャートで示す。


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