研究紀要第64号 「生徒指導に関する研究」 -001/046page
I 研究の趣旨
児童生徒の問題行動が多様化し,依然としてあとをたたないことなどに対し,目まぐるしく変化する社会状況の中で教育に寄せられる期待と解決しなければならない課題は,計り知れないほどである。
中でも,児童生徒の問題行動を抑止するという立場からだけでなく,人間性豊かな児童生徒の育成を目指すという教育本来の目的達成の視点からも,生徒指導のあり方の見直しや指導方法の工夫などが強く望まれている。
そこで,前年度は,「児童生徒の耐性に関する研究」(紀要61号)としてまとめた。
この研究で,現代の児童生徒の耐性の欠如が明らかになったが,その中で児童生徒の一般的な傾向として,自己中心的な見方や考え方が強いこと,自律心の不足,集団への対応のまずさなども浮きぼりにされた。
そして,これらのことについて検討を重ねる過程で,次代をになう児童生徒のよりよい人間形成を目指す課題として,「連帯感」の育成を図っていかなければならないということを見い出した。
連帯感の重要性については,次のような指摘によっても伺い知ることができる。
主なるものとしては,まず,社会教育審議会が答申の中で,
「今日の青少年の意識や行動の傾向として,性格の上では明るい面が見られ,豊富な知識や情報を有している反面,心身のひ弱さが目立ち,連帯の意識が低く,概して個の確立が遅れていることが問題となっている。
そして,今後に予想される社会状況の一層の変化に対処していくためには,青少年が個人として自立し,創造性に富み,社会連帯意識を持ち,日本人としての有覚と国際感覚を身につけ,生きがいを求めて主体的に行動できるようになる必要がある。」
と述べている。
また,教育課程審議会が,昭和51年の答申の中で,「学校教育の現状や今日の学校をとりまく社会の状況を考慮し,これからの学校教育において人間性豊かな児童生徒の育成にあたって一層強調されなければならないこと。」として7項目をあげている。
この7項目のすべてが欠くことのできないことであるが,とくに,第5項目に,「社会連帯意識や奉仕の精神に基づく実践的社会性を培うこと」と指摘している。
さらに,当教育センター講座受講者である小・中学校の先生方を対象とした調査からも,次のようなことがわかった。
すなわち,「自己中心的で,他人あっての自分という考え方ができない」「勝敗にかかわることでは努カするが,作業やボランティアなど苦労を伴うことでは協カをしない」など,児童生徒の連帯感は希薄である。また,連帯感を育てる場として,「クラブ活動」「学校行事」「部活動」「対外試合」などをあげ,集団と個のかかわりから身につけていくべきだと考えている。
しかし,実際上はどう指導してよいかわからず迷っており,解決のための手だてを待ち望んでいるということである。
いうまでもなく,児童生徒に連帯感を培うには学校生活だけでなく家庭や地域社会をも含めたありとあらゆる場で育成に努めなければならない。
しかし,実族関係の希薄化,生活様式の変化,人間関係の疎遠や地域住民の連帯性の喪失などによって,家庭や社会における教育カが低下し,連帯感の育成は,あまり望めないといわれている。
それに対して,そのほとんどが集団という場を通して行われる学校教育は,連帯感を育成する上で適しているということができる。
本研究は,学校生活の諸活動を通して連帯感を育てるための小・中学校の実践事例を中核にすえまとめようとするものである。